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せい【静】


鳥の鳴き声が部屋の中にまで響いている。


私は伊達政宗に言われて、与えられた部屋に戻った。

【襖】【蝋燭】【文机】同じ【部屋】の分類でも違うものだ。

研究所にいたころの私にとって、【部屋】といえば大体どれも同じようなものだった。
その他の【部屋】は知識の中にしか存在していなかった。


私の指先の開発を担当した、あの神経質な教授を思い出す。

ごく僅かではあるが隙間風が吹き、空調も防音システムも備わっていないこの部屋。
あの教授はここでは落ち着かないだろう。

私の指先から微かに機械音がするだけで苛立ち、関節の動きが不自然ならば微調整を繰り返し、助手はいつも愚痴をこぼしながら教授の微調整を手伝っていた。

実際、その教授がとてつもなく神経質だったおかげで、私の指先はなめらかに動くようになったのだが。


鳥は最後に一度大きく鳴いた後、聞こえなくなった。


代わりに廊下から響く騒音。次いで、開かれる障子。


「Hey! 名無し、支度しろ!」

「伊達政宗、静かに来てください」


荒々しく開かれた障子の向こうに、伊達政宗が立っていた。
あれからまだ一時間とたっていないにも関わらず、上機嫌なようだ。


「伊達政宗、猿飛佐助は見つかりましたか?」

「別にさがしてねぇよ」

「何故」

「どうせ甲斐にいる」

「では、彼は」

「Stop! んな話はナシだ」


彼は私の正面に座り、上機嫌な顔のまま、簡潔に言った。



「宴だ」

「うたげ」

「That's right! 伊達は、お前を歓迎する」


変な奴だけどな、と彼は笑った。


「伊達政宗、それはつまり」

「おい、宴の間だけでいいから、政宗様を呼び捨てにするのは止めろ」


開放されたままだった障子の向こう側に、片倉小十郎が見えた。


「片倉小十郎、中に入らないのですか」

「…いや、入る」


彼は部屋に入ると丁寧に障子を閉めて、伊達政宗の斜め後ろに座った。
彼が座るのを待って、伊達政宗は続きを話した。


「名無し、宴でお前の紹介をする。これからお前を探りにくる奴は敵だと思え」

「どういう意味ですか」

「お前も伊達の一員だってことだ。You see?」

「一員。伊達の」

「Yes! 宴が終わったらな!」


そう言って、伊達政宗は私に座ったまま近づいた。
私と彼の距離は30センチもない。



「さて、おまちかねの Question time だ」


抑えた声。しかし、声とは裏腹に彼は楽しそうだ。


また甲高い鳥の鳴き声が、部屋の中に響いた。



せい【静】

しんと澄みわたる
雑音や動きがなく、静まりかえったさま


何かが起きる前は静かになるそうだ。





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あきゅろす。
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