しごと【仕事】
【伊達成実】
・伊達実元の嫡男
・伊達政宗の重鎮
・百足をあしらった兜を持つ
・確認重要度2
これは現代に伝わる歴史が正しいならば、奥州にいるであろう人物のデータだ。
それほど重要な人物ではない。
調査の優先順位は【片倉小十郎】の方が上である。
しかし、今、この【伊達成実】という人物について情報を集める必要があるかもしれない。
「片倉小十郎」
畦道に立つ私の呼びかけに、彼は畑の中から目線も動かさずに返事をする。
「なんだ」
「作業はいつ終わりますか」
「さぁな」
「時間を設定しないのは非効率です」
「畑仕事は時間通りに終わらねぇもんだ」
「オーバーワークは人体に悪影響を与えます」
「……」
会話が途切れ、彼は黙々と作業を続行した。
私はいくつかの疑問を解消するために片倉小十郎と話がしたいのだが、彼は手元に集中していてこちらを見ようともしない。
私が奥州に来て数日。
片倉小十郎は畑仕事ばかりしている。
「貴方は政務をしなくても良いのですか」
「今は畑にとって大事な時期だからな」
伊達政宗は、奥州を走り回ってくる、と言い残して午前中に出かけてしまった。
彼は昨日は午前中に道場へ行き、午後は縁側で睡眠を摂っていた。
一体奥州の政務を執っているのは誰なのだろう。
奥州はどうやって成り立たっているのか。
そう考えたときに、一人の人物に思い至った。
「【伊達成実】はどこにいますか」
「その辺をふらふらしてるだろ。探してみろ」
「【伊達成実】の外見データがありません。一緒に来てください」
「俺が今仕事してんのが見えねぇのか」
「仕事」
「これから忙しくなってくるからな。やれるときにやっとかねぇと」
「忙しい」
「雪が溶けた。じきにどこぞの軍が動き出すだろう」
「それはつまり、侵攻される、ということですか」
「こちらから攻める場合もあるが…。政宗様のお考えしだいだな」
私は片倉小十郎を見た。
頭部に布を巻き、腰に刀はさしてはいるが、手には鍬を持っている。着ている着物さえ上質とはいえない。
まるで農民だ。
「戦いが始まるというのに、何も備えをしなくていいのですか」
「だから、今してるだろうが」
私は一体どういうことなのか分からなかったので、更に質問を重ねた。
しかし、彼は作業に没頭していて断片的な情報しか得られなかった。
私は片倉小十郎からの情報入手を諦め、【伊達成実】の情報を求めて城に向かった。
その途中、片倉小十郎との会話を検証していると、ある一つの可能性に気づいた。
片倉小十郎の【仕事】とは、【畑仕事】のことではないだろうか。
なんということだろう。
今すぐに確認しなければ。
私は、今までに研究所に送ったデータを開いた。
やはり。
すぐに私は踵を返して、片倉小十郎のいる畑に向かった。
【畑仕事】は【趣味】なのか、それとも彼に与えられた【仕事】なのか。
私のデータには、片倉小十郎の【趣味】は【畑仕事】と入力してある。
データに誤りがあってはならないのだ。
そんなこと聞きに戻ってきたのか、と彼は僅かに眉尻を下げて苦笑した。
そして、そのまま彼は畑仕事を中断して、畦道に座った。
私も隣に座り、夕食まで彼に質問をし続けた。
しごと【仕事】
職業、職務。
各人がうけもつ任務。
「やはり、【仕事】なのですね」
「んなこと聞いてどうすんだ」?
「それを聞くのが私の【仕事】だからです」
「……大層な仕事だな」
研究所に【片倉小十郎】の訂正データを送らなくては。
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