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じじつ【事実】


彼と私は無言で歩く。

私は【不快】を彼にさせているようだ。


「どうしたらいいですか?」

「Ah?」

「【不快】なときはどうしたらいいですか?」


彼は怪訝そうな顔をする。

「相手が【不快】だと、自分も【不快】です。どうしたらいいですか?」


彼は吸い込んだ空気をゆっくりと吐き出し、

笑った。


「……やめだ。どうも調子狂うぜ」

「やめる、何をですか?」

「お前の化けの皮を剥いでやることだよ。you see?」

「【化けの皮】、ですか」

「あぁ、今日、お前に探りを入れるつもりだった。小十郎が後をつけてる」


裏路地を顎で示す。


「単刀直入に言う」


彼は真っ直ぐに私を見る。


「お前は忍じゃない。right?」


頷く。


「で、お前は俺のことが知りたい」


頷く。


「Why?」

「それが、私の存在理由だからです」

「正直に言えよ?」

「私は、貴方たちを調べる為に造られた、独立人型調査機です」

「OK. よく聞け、俺はお前を気に入っている。だが、正直に何者か、事実を話さねぇ奴を城には置けねえ」


何者か

この問いにはどう答えればいいのだろう。


頭の回路は正常に機能しているはずなのに、次に発するべき言葉がわからない。


わからない。


「私は、何者ですか?」

「Ah?」

「私、は名無し。人型独立調査機。貴方に、会いに来ました」


私は手を伸ばす。

間にある、巨大な歳月を越えて、彼に触れる。


「伊達政宗は、ここにいる。それは、【事実】。私は、それを確認しに来た」


彼は一瞬警戒するような素振りをしたが、
私の手を払いのけることはしなかった。


「私は、そうやって、確認する為に造られた」


手を彼から離す。


「それが、【事実】」


わからない。
この答えが彼が求めるものなのか。
それでも、これが私の知る【事実】だ。


「他の【事実】は、これから確認していきます。その為に、私はここにいるのです」


これも、また一つの【事実】。


「……本当に変な奴だ」


彼の表情から、感情は分からなかった。

笑っているようで、
呆れているようで。



「だが」




彼は私の手に触れた。





「まぁいいだろう」



【まぁいい】


「それは、貴方の城に居てもいいということですか?」

「Yes」



暖かかった。

【不快】は全て、消えた。

私は、ようやく学んだ。
相手の【不快】を消す方法を。

私は伊達政宗の手を握り返した。



彼の【不快】も消えればいい。





じじつ【事実】

実際にあったできごと。
本当のこと。


【不快】を消す方法は、確かにあった。
これも、私が確認した【事実】。







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