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強気の芝居


ふぅ。と溜息。


「ごめんなさい」


謝罪の言葉は、ただ宙に浮かぶ。








「HEY、名無し」

「許して下さい」

「この着物は…」

「1人で行くのは嫌なんです」


頼む。
今日はそれ着てよ。

私が彼らに持って来たのは、兄の高校時代の学ラン上下と、野球部のロゴが入ったクラブジャージ上下。


今は大学生の兄は、県外に1人暮らし中だ。
しかし、兄がいても、彼は私服を全て持っていってしまった。
が、こういったものはクローゼットに残している。


やはり思い出の品は大切にすべきである。


「大丈夫です。素敵です」

春休み中だから、目立つだろうが。


「学ランを伊達さんが、ジャージを幸村に着てもらいたいんですが」


視線で許可を求める。
そこに割り込む不届き者。


「名無しちゃん、ちょっと待ってよ。つまり、うちの旦那と竜の旦那が一緒に出かけるんだ?」

「幸村は泥だらけなので早めに着替えた方がいいですし、伊達さんはまた部屋を荒らしそうなので…置いてけません」


服のサイズの問題があり、片倉さんは無理。
で、


「猿飛さんは、昨日、公務執行妨害を犯したばかりなので」


ぶっちゃけ連れて歩きたくありません。


となると、自然にこの2人になる。






…おかしい。

買い物は片倉さんか猿飛さんが家庭的なところを発揮するところなのに。



「困るなぁ。なんとかならない?」

なんとかしたいのは私も一緒だ。

私だって貴方が
『旦那に団子買っていい?』
とかオカンを発揮するのを見たかった。


でも無理。


「ごめんなさい」


何度目かの謝罪。


「佐助!名無し殿に迷惑をかけるな!」

「That's right.時と場所くらい弁えてる。暴れたりしねぇよ」


猿飛さんは、仕方ない、という顔をした。



「さぁ、着替えて下さい」

買い物メンバーに向き直る。

着替える、といってもクラブジャージや学ランは羽織るだけだ。




「…鎧の上にかぁ」


脱いでもらうしかない。


素肌の上に学ラン。
素肌の上にクラブジャージ。


「素敵じゃないか。二人とも、鎧脱いで下さい」


しかし問題発生。




鎧を脱ぎたがらない。


しかも、チャックがわからない。





必死で宥めすかし、念願の素肌に学ラン、素肌にクラブジャージを達成した。


勿論、幸村の上着の前チャックを閉めたのは私だ。

流石に、伊達さんの学ラン(ズボン)は、幸村のを見せて、自分で閉めてもらった。



やれやれ、だ。


「あっ!あの、片倉さんと猿飛さんは、この家の片付けをお願いします」

発掘した財布と通帳をかばんに入れかながら、居残り組に声をかける。


「わかった」

「はいよー」


いい返事で、大変助かる。


「私の部屋は入らないでくださいね」


次こそ本当に。

下着が床に散らかったままだ。

…あれは伊達さんの仕業だったか。

もうアイツも呼び捨てでいいかな?

ちょっと強気になってきた。


「幸村、伊達…さん」


やっぱりやめとこう。片倉さんが怖い。


「なんでござろう?」

「どうした?」


すっかり、地元高校の学生と、野球部員になった武将がふりかえる。

でも、その腰には武器。


怯むな。

自分は最強ヒロインだ。
と、暗示をかける。


さて、まだまだ、お決まりのストーリーがある。

それをしようじゃないか。




「武器を、渡してもらってもいいですか?」


ここは確か、はりせんか蝿叩きで脅すんだっけ?

蝿叩きを探す、が、







睨まれた。


全員に。







なので、慌てて台詞を付け足した。








「あの2人のどちらかに」


猿飛さんと片倉さんを示した。



あぁ、弱虫め。




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あきゅろす。
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