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理解の強制


なんという珍しい光景だ。
ここは現代日本なのか。

私はため息をついて、部屋を眺めた。
一つの物体に目が止まる。

クローゼットの扉に刺さった物体。
それを私は知っている。
もっと言うなら、それを操ったこともある。
指先でボタンを一つ押して。


「盾…」


浅井長政のイメージカラーである白と赤を基調とした盾。
ときにはブーメランにもなる優れ物。
通常技ボタンを何度か連打すると発射。
発射して、私の部屋のクローゼットに刺さったようだ。
削除完了。
そんな叫び声が聞こえてきそうな程、すっきり深々と刺さっている。


「…っ削除」


はっとした。


「片倉さん怪我は!?」


ドアを乱暴に開き、茶色い羽織りの武将に駆け寄った。


「大丈夫だ」


彼はまったく無傷、というわけではなく、あちこちに擦り傷らしき跡があった。


「とりあえず、手当てを…」

「いや、いい。かすっただけだ。それより、悪かったな。お前の部屋で暴れちまった」

「それはいいんですが…」

「Hey!」

「……はい」

「ここに浅井の奴が来たそうだ」

「はぁ」

「どうなってやがる」


それを聞きたいのは私の方だ。
だが、一応。


「同居人が増えるのは、なんといいますか、ものの道理です」


私の覚悟はできていた。
ただ、第二波が早すぎたのと、意外な人選に戸惑っただけだ。


「とにかく、浅井さんが心配です」

「Wait」

「?」

「あいつもこの家に住ませるつもりか」

「当然です。説明もしてあげないといけません」

「浅井は織田と姻戚関係を結んでる」

「……」

「俺らの敵だ」


短い言葉。
きっとこれが全てなのだろう。
鋭利な刃物で斬り付けられた壁。
盾。
荒れた部屋。
頬に傷をもつ男。
鎧。
腰には刀。
そして、一国の主。

もう、珍しい光景、で済まされるところではない。


「世界が、違う」


ここまでとは思わなかった。


「Ah?」

「政宗さん」


世界が、違う。


「ここは、私の家です」


そう、彼らがいた場所と、ここでは。


「世界が違います。考え方も。全部」


私は解っていた。


「ここでは、敵とか、味方とか、ないんです」

「それは、お前だけだ」

「あなた達は、今はこっちにいます。私と暮らしてます」


私は世界が違うことを解っていた。


「お前には解らねぇよ」

「えぇ。わかりません。私にあなた達の世界なんてわかりませんよ」

「なら」

「でも」


幸村が居間から顔を覗かせた。
後ろには猿飛さんもいるのだろう。
今しかない。


「私は、あなた達の世界と、こっちの違いをどうしたらいいか、解ります」


とても簡単なことなのに、彼らは混乱しすぎて見落としている、違いを埋める方法。


「ちゃんと、こっちを見て、理解してください。私にはあなた達の世界はわからない。あなた達がこちらの世界を理解するしかないんです」


とてもとても簡単なこと。
しかし、彼らにしかできないこと。


「私は浅井さんを探します。こっちには敵も味方もありません」

「……」

「わかって下さい」

「…浅井は、こちらの話を聞こうともしなかった。また斬り合いになるかもしれねぇ」


片倉さんが言う。
真田主従は真剣な顔で聞いている。


「なら斬り合って下さい。縛り上げて降参させて説明して納得させます」

「斬り合っていいわけ?」

「猿飛さんがそうしたいならそうして下さい。目的は同居を承諾させることです。斬り合っても、和解した後にごめんって謝って背中ぽんぽんすればいいんです」


なんたって浅井。正義の男。
後で悔い改めたら許してくれるだろう。


「……たぶん」


悪は許すまじってなってしまったら、もう手が付けられないかもしれないが。


「と、とにかく、一瞬だけ悪に心を支配されちゃったことにして、みんなで頑張りましょう!」


無理矢理しめくくり、拳を突き上げる私。
幸村だけ素早くそれに同調して拳を突き上げ、猿飛さんは呆れ顔。
Ok,と呟いた伊達さんに、僅かに険しい顔のままうなずいた片倉さん。
4人の同意らしきサインを受け取り、ほっとして、私はまくし立てた。


「じゃあ、とりあえず、居間を片付けて下さい。私は自分の部屋を片付けます」

「俺も手伝おう」


片倉さんが申し出た。


「いえ。片倉さんはまずは治療です。薬箱を発掘したら持ってきますから、お風呂場で傷口を洗っておいて下さい」

「俺は大丈…」

「あ、誰か昼食の支度をお願いします」


片倉さんの言葉を故意に遮って、猿飛さんに期待の視線を送る。
しかし、猿飛さんは怪訝そうな顔をした。


「ちゅうしょく?」

「…あなた達は一日二食でしたね」


理解してもらわないといけないことは、意外と多いようだ。






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