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退出の強制


私の体は現実を拒否した。
それにより、みしみしと固まった。


「……」

「……」

「……」


「…えー…っと、名無しちゃん?」

「……」

「あのさ、今から片付ければ寝床くらいはなんとかなると思うんだけど…どうする?」


体はまったく動かない。
少しでも動いたら、この目の前の惨状を現実だと認めなければならないような気がした。

これは断じて現実ではない。絶対に認めない。
動くものか。動いたら負けだ、そんな気がした。


「手を洗ってきたぞ佐助!」


幸村が私たちとは別のドアから入ってきた。


「あー!旦那、 走ってこないで!足下見て!陶器が割れてるから」


慌てて猿飛さんが牽制する。


「なっ…!佐助、何があったのだ!?この部屋は一体…!」

「大変だったみたいだね〜」


幸村が床に散らばった破片や小物の間を縫って私に近づいてきた。


「佐助!おまえは掃除を申し付けられたのではないのか!」


少し幸村のしっかりした部分がわずかに見えた。


「名無し殿、申し訳ないでござる!」


その場に膝をついた幸村。
土下座までしそうだ。


「旦那ぁ、これをやったのは俺じゃないからね。名無しちゃんが証人」


ねっ、と同意を求めて猿飛さんがふりかえった。


「……」

「……」

「……」

「名無し殿!どうかお怒りをお鎮めくだされ!!」

「…名無しちゃん?どーした?」

「……」


私は、ほんの2日前まで逆トリなんて夢でしかないと思っていた。
しかし今、それは現実になっている。

できる。
人間は可能性を秘めた生物だ。
人間は夢を現実にすることができるのだ。
逆に現実を夢にできないはずがない。
できる。
この状況を否定し続ければ、夢だったということにできる。
きっとできる。


「おーい、名無しちゃん?」

「某、佐助の主としてどのような処罰でも甘んじて受けましょうぞ!名無し殿、なんでもおっしゃってくだされ!」


1mmたりとも動くものか。
唇も含めて。
夢を現実にした私になら、現実を夢にできるはずだ。

そう現実逃避を開始した私だったが、次の瞬間、現実に引き戻された。


「名無しちゃん、文句なら浅井の旦那に言ってよ」


「…っ、……浅井!?」


現実に戻った瞬間にまた弾きだされそうになった。

なんということだ。
あまりに突拍子もないチョイスに一瞬声が出なかった。


「そー」


まさかこんなことになるなんてねぇ、とか呑気に部屋を見渡す猿飛さん。


「い、今、どこに…?」


聞きたくないー早すぎるー、なんて駄々をこねる本心をぐっと抑えて、突然の訪問者の行方を訪ねる。


「んー、さぁ?」


さぁって何だ。さぁって。

掴み掛かりたい本心を必死で宥める。


「え、っと…片倉さんは?」

「あっち」


指差した先には、私の部屋につながる廊下。
まさか。


「片倉さん!」


乙女の部屋で何を、というかまさか。

私は乱暴にドアを開けた。


「………」

「………」

「………悪い」


それではすまされないと思う。


「かかかか、かか、か片倉さん!!?」

「悪いな。またお前の部屋を散らかした。今から片付ける」

「い、いいです!!っというかあなた、あー!」


私は片倉さんが持ち上げたものを再び床に叩き落とし、彼を強制退室させた。


「What's !?」

「いいから出てください!ほら、あなたも!!」


先に部屋に来ていたらしい政宗さんも引っ掴んで廊下に出した。

否定したい現実は意外と多い。
しかし、結局どうにもならないので、みしみしと固まり現実を否定したがる体に鞭を打って、衣類をかき集めた。

片倉さんが片付けようとしていたのは、偶然にも、朝から放り出されっぱなしの私の下着だった。




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