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不安の怒気


『買い物ってさ、もっと、こう、あると思うんですよ。
いろいろと。
え?なにがって?
普通のことが、です。

この人たちはトリップしてきたんです。

だから、普通のこととして、
特別なことを期待しちゃってもいいですよね?』




私は鼻息も荒く、一気に今の心境を新品のメモ帳に書き記した。

このページのタイトルは『夢見る乙女』にしよう。
現実は『夢破れし乙女』になりつつあるが。

私は酷使された腕をさすった。
明日は筋肉痛で決定だ。


「名無し殿!見てくだされ!妙な邸があるでござる!」


私はカバンからイヤホンを取り出した。


「Oh, 馬なしでこんなにspeedが出せるのか」


携帯につなげて、音楽プレーヤーを起動させる。
なんでこんなに元気なんだ。
昨日はほとんど寝ていないはずなのに。
異議ありだ。



食べ物を買うのは波瀾万丈だった。
いろいろと濃い時間で、記憶がちょっと危うい。
幸村の甘味に対する執着を甘く見ていた。
そして耳と尻尾に勝てない自分が憎い。
次からはもう騙されないからな。


そんなこんなで。
買い物に疲れたので、帰りはバスを使うことにした。

バス停は家を少し通り過ぎたところにあるが、それでも10分も歩けば家だ。
行きは不安で乗れなかったが、二人の様子を見ると、乗っても大丈夫そうだ。
お金がもったいなかったが、私は20分ももう歩けない。


「名無し殿?」


ちょっと私は不安を感じていた。


私から通路を挟んだ向こう側の座席に政宗さん。
そして私の後ろに幸村。

二人用の座席を一人で占領している状態だ。

まぁ、平日なだけあって人は少なく、誰も文句は言わない。

本当のところ、私はどっちかのお隣にお邪魔したかったが。

まだ会って二日目。
妥当な距離ということにしておこう。

私が不安なのはこの距離ではない。
私の隣を占領している物体だ。


「幸村、政宗さん、何かおかしいと思いませんか?」


私はバサラのオープニング曲を片耳で聴きながら、はしゃぐ二人に声をかけた。


「馬がつないでねぇのにこれが進んでやがることか」

「む、おぉ、確かに馬よりも速く進んでいるでござる」


はは、言ってろ。

やっぱりハリセンを買っておけばよかった。
この辺の意識の違いというか、生活の違いは早めに理解してもらおう。
実力行使も厭わない。

二人はまた流れていく外の景色に夢中になっている。
あまりの微笑ましさに、思わず頬がゆるむ。
今日は初日だから、まぁ、大目に見ることにしよう。


私は私の隣を占領した大量の袋を手でたたいた。

ちなみに、二人の隣には何もない。


毎回こんなことだったら、これからの生活が不安だ。

ため息をつきながら、次のバス停で降りる準備を始めた。

勿論、袋の中身は食料と彼らの服だ。
買い物の間、荷物持ちはもっぱら私の仕事だった。

非常に残念なことに、
奥州筆頭と虎の若子は、荷物を分担して持つという考えを持っていないようだ。


もう一度ため息をつく。
次からはこの辺をびしばし指導していこう。
大切なのは協力。



特別なことを期待する前に、
普通のことを教えなければいけないようだ。





「…そういえば、猿飛さんはどうしてるんでしょう」

「?佐助ならば、名無し殿の屋敷におるのでは?」




このバスの屋根にへばりついてたらどうしよう。



心配事がまた一つ増えてしまった。



(もう知らない!)




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あきゅろす。
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