再演の出費
「……」
「Tomato」
「と、と…?」
「……」
「Strowberry」
「すとろ、べり?」
「……」
「Green pepper」
「ぐ、……?」
「……」
「Oh,it's a melon」
「お、いっつ、あめろん?」
「なんで甘いもんのときはわかるんだよ」
なるほど。
つまり幸村はトマトとピーマンが本能的に駄目なのか。
片倉さんに言いつけてやる。
ひんやりとした空気が肌寒い一階食品売り場。
一番オカンとオトンを引きつれて来たかったコーナーだ。
ここで、
伊達政宗の異国語講座〜食べ物編〜
が開かれている。
あれ、デジャヴ?
「名無し殿!某、あめろんを食べてみとうございます!」
この講座はあまり役に立たない。
その証拠に、幸村は冠詞が名詞とドッキングしている。
「幸村、あめろんの旬はまだです」
「…む?」
「おい、名無し、あめろんって」
「どうせならおいしいときに食べるべきですよ」
しかも、メロンは高い。
財布の為にも、ここは我慢してもらおう。
そして政宗さんも我慢してもらおう。
正しい発音とか今はどうでもいい。
私はぷるぷる震える腕に力を入れ直した。
「とりあえず、今日と明日の食べ物だけ買いましょう」
腕の感覚が無くなる前に家に帰りたい。
そんな私の心の叫びはこの人たちには通じない。
「冷たいでごさる!」
「奇妙なBoxだな。It' cold」
「ぼ…く?名無し殿、これはなんでござるか!」
「アイスです。アイスは温かいと溶けるので、こうやって冷たい、……箱…?の中に入れておくんです」
クーラーボックス、で合ってる、かな?
「どうやって冷たいままにしてるんだ?」
政宗さんが冷気の噴出口に手をかざしながら問う。
改めて質問されるとわからない。
当たり前にアイスはその中に入っていて、当たり前にそれは冷たいものだったからだ。
「…ちょっと、わからないです」
彼らは不思議そうな顔で振り向いた。
「どういう仕掛けかもわかんねぇまま使ってんのか?」
「えぇ、まぁ…」
驚いたような、呆れたような。
その表情の顔を向けられるのが耐えられなかった。
「幸村、政宗さん!アイスは止めて、さっさと食料を買いに行きましょう!」
そう言って、無理やり話題をすり替えた。
私は感じる。
腕の限界が近づいている、と。
そして、彼らと私が少しすれ違ったことを。
「……」
幸村、さん?
「……」
視線の先は私。
「……」
視線の先はアイス。
「……」
しゅんとうなだれる子犬一匹。
「…ちくしょう、負けた」
幸村の視線の先にあったアイスをひっつかんでカゴの中に。
「買ってやんのか?」
「もちろん」
あれ、デジャヴ?
政宗さんもちゃっかりカゴにコーヒーアイスを入れた。
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