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筋力の出費


「じゃ、ここから動かないでください」


気になっていたことも解消かれ、私は晴れやかに日用品を買いに行こうとした。


「名無し殿…!お待ち下され!」


私は涙目の幸村をおいて歩きだした。

ふっ涙目なんて私には効かない。
どうせなら尻尾を振れ真田幸村。

そしてエスカレーターで二階まで降りると、私はまず百均へ行った。

コップやお箸はそっちの方が安い。





箸とコップ、あと3つで百円のおかしを買い込んだ。

レジて精算を終えた後、私はまだ百均の商品を眺めていた。


必要なものがある。
もちろん、楽しい展開にするために。
私に使えるかわからないが。

しかし、

「届かない」


今更だが、私のこのすぐに声に出してしまう癖はよくないものだと思う。


例えば店に入ったとき、一人でぶつぶつ言っているわけだから怪しいことこの上ない。

いつも、口に出した後でしまった、と思う。
そして周りに誰かがいたら慌ててその店から逃げるように出ることになる。


「なんでこんなに高い位置に…」


それでも私の口から言葉が転がり落ちる。

私にその癖を直すという選択肢はない。
染み付いた癖はどうしようも無いのだ。


「どれを取ればいいの?」


突如後ろから声が掛けられた。
だから声に出すのはよくない癖なのだ。

顔に血液が昇るのを感じながら、慌てて振り向く。


「あっ、べ、別に大丈夫で………す」

「アハー。面白いね。その顔」


振り向いた私の目には何もない空間が映る。


「こっち。上だよ」

「なんでここに…」

「旦那の見張り」



いやぁ、うちの旦那ってば気が抜けまくりでさ、
と飄々と笑う彼。

嘘なのはすぐにわかった。
その人を思っての嘘には気付かないフリが一番いい。
そして、友好的ではない嘘にも。


「家の片付けは…」

「大丈夫。片付けは終わったから」


たぶんこれも嘘だ。

がんばれ片倉さん。
心の中から届けこのエール。


「その格好じゃ目立ちますから、早めに帰ったほうが」

「見つかるわけないってね」


それは確実に嘘。

なぜなら、彼は防犯カメラというものの存在を知らないからだ。

というか、初めてのお使いにきた我が子を見守るような発言を期待してもいいですか?


「幸村さんたちなら三階ですよ。服を買ってます」

「そっか。君は何を買うの?」


無理なようだ。
きっと彼が見に来たのは私なのだ。


「あー…お椀やお箸、とかですかね」

「ふぅん。こんな店で?」


彼が店内を見渡す。

私の予想では、私が先に茶碗などの精算を済ませたのを彼は見ていたはずだ。

しかし、私はあえて何も言わない、というか言いだし方がわからないので何も言えない。


「食器はあっちの棚に並んでます」

「じゃあなんで君はこっちを見てるのさ?」

「見るだけならタダですから」

「ふぅん」


そして彼はようやく天井から降りてきた。


「これは何をする道具かな?」


さっきまで私が手を伸ばしていた商品に彼の手が伸びる。

憎たらしかった10センチをひょいと越えていく。


「軽いね」


そして隅から隅まで触ったり、いろいろな角度から眺める彼。


「それの用途は様々ですね」


私はかつてないほどに腹筋を使っていた。


「へぇ。買うの?」


顔は笑っているが、目からは鋭い視線。


「どうしようかな、と迷ってます」

「そっ」


一瞬。

本当に一瞬。

一瞬で彼は消えた。


まるで最初からいなかったかのように。

人が来たようだった。
二人組の女の子が、楽しそうに彼が商品を取ったのと同じ棚を眺める。


(くっ、我慢、我慢よ)


私は必死で笑いを堪える。
写真を撮っておけばよかった。

滅多に、というかもう二度と見られない光景だった。

私は彼の手から床に落ちた商品を拾って一段低い棚に戻した。


(警戒してた!じっくり見てた!!…くくっ)



少し笑い声が漏れる。
二人組の女の子が、怪しそうに私を見た。
彼女の手にはアフロのカツラ。


この棚にはパーティー、
訂正、パーリィ用品が並んでいる。


(ハリセンはまた今度、どうしても最強ヒロインになりたくなったら買いに来よう)



棚に戻したハリセンを見て、またちょっと腹筋が震えた。




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あきゅろす。
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