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発音の出費


「『政宗様』って早口で言うのが個人的に好きです」


片倉さんみたいで。
一番好きなのは『筆頭』だが、そういえば彼はまだ自分が奥州筆頭だと名乗っていない。


「お前は俺の家来じゃねぇんだから普通に名で呼べ」


「政宗さん、ですか?」

「YES」


これはこれでいい。
名前で呼んでくれ、こういう展開はよくある。
ありきたりな展開ではあるが、


「すっごいトキメク」

「また声に出てんぞ」


しまった。
乙女のときめきまでもただ漏れ。


しかし、私が『政宗さん』と呼ぶことを約束したら、
彼はおとなしく医療用の眼帯に付け替えてくれた。








「S, small. M, medium. L, large. Ok?」


余計に複雑にしている気がする。
Okなはずがない。


「余計に混乱してきたでござる…」


やっぱり。

今は三階、紳士服売場。

そこで、
伊達政宗の異国語講座〜大きさ編〜
が開かれている。

素晴らしい発音だ。

英語ドリルとかについてるCDを再生しているみたいだ。

オカンとオトン組で買い物ができなくて悔しかったが、
服の買い出しは政宗さんが来てくれたおかげで、説明がはぶけて楽だった。
さすがオトン。
いい教育をなさってる。

しかし、このままでは幸村が可哀想だ。
面白い、も若干含まれる可哀想、だが。


「政宗、さん…やめてあげてください」


〈さん〉をつけるのに物凄い違和感。
いっそ呼び捨てにしようか。
いやいや、片倉さんに許可をとってからにしよう。


ひとまず今は
親しき中にも礼儀あり、だ。

親しいのかどうかいまいちわからないが。


「いや、これからだし!」

頑張れ自分。


「That's light. 真田幸村、まだ説明することはあるんだ。S. M. L. これくらいとっとと覚えろ、hurry!」


伊達さん。
違う、違います。
どうでもいいことは口からぽろぽろ出るのに、訂正の言葉は口にはでなかった。


「あーっと、じゃあここは、だ、いや政宗さんに任せます。私は日用品を買ってくるので…」

「Ok」

「ま、待ってくだされ名無し殿!」


待てません。
いくらあなたが政宗さんの異国語に混乱しているのがおもしろくても。

まわりの視線が痛すぎる。

学ランとクラブジャージは失敗だった。
服売場でありえないほど目立っている。

(ゲーセンで遊んでるのが普通よね。学校帰りの男子高校生なんて)


とりあえず安全地帯まで逃げようと歩きだした私。

しかし、一つのことが私の頭にぱっと浮かび、立ち止まった。

気になったら確認したくなった。
どうしても。
後で確かめる、という選択肢はない。

慌てて引き返した。


「政宗さん」

「どうした、名無し?」



彼の異国語講座で思い出した。

ひとつ気になっていたことがあったのだ。

忘れるところだった。



私はカバンから表紙が破れたメモ帳を取り出した。
それに走り書きをする。


「これ、読んでください」


彼に突き付ける。


「Ah?」

「お願いします、普通に読んでください」


その素晴らしい発音で。


「____.」


「政宗様!さすがっ」


大正解です。
あなたは正義だ。

私はメモ帳を閉じた。



書き:Party.

読み:パーリィ。




私もこれからそう読みます。


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