自責の怒気
疲れたぁ〜と力の全てが抜けていくような声を出しながら玄関に服が入った袋を落下させる。
食料の方は卵を守るためにそっとおいた。
そうとうの量だ。
無理矢理つめこまれたエコバックは可哀想なくらいにぱんぱんになっている。
そして私の腕も可哀想なくらいにぱんぱんだ。
久々の我が家。
ただいまマイスウィートホーム。
私の疲れを癒しておくれ。
「お帰り〜」
猿飛さんがひょこっと顔を出した。
おそらくバスには張りついていなかったということにしてもよさそうなくらいに元気そうに見えないこともないような気がすると思う。
ようするに、私に彼は推測不可能。
真相はわからない。
「佐助!外はまことに不思議なものがたくさんあったぞ!」
幸村が玄関に置かれた買い物袋を跨いで猿飛さんに駆け寄る。
ワンコ!と叫ぶ気力はもうなかった。
「はいはい。旦那、まず手を洗って」
オカーン!と叫ぶ気力はまだあった。
ただし、心の中で、だが。
ここまで荷物を運んだ疲れと、
これから買い物ニ人組を教育していかなければならないプレッシャーと、
そして目の前でにこにこと笑っている忍を心配したのとで、
もう私は本日閉店だ。
「カラガラー。かっこ、シャッターの閉まる音、かっこ終わり。おやすみなさい」
ばたっと廊下に倒れこむ。
「小十郎!帰ったぞ!」
どすどす。腹に振動が響く。
私など眼中にないようだ。
少し寂しい。
服が入った袋を枕代わりに本格的に寝る態勢。
「名無しちゃん?疲れちゃった?」
幸村を洗面所へ追いやった猿飛さんが私を覗きこむ。
「…だいぶ」
「…もしかして、この荷物ってさ」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
答えたくない。
でも、猿飛さんなら答えなくてもわかるはずだ。
「…ごめんねー。旦那方ってば気が利かないんだから」
「いえ…、まだわからないことが多いでしょうし。これから手伝ってもらえれば、それで…」
「これからは俺が買い物に行くよー。ね?行かせて」
私が見上げているはずなのに、その上目遣いでおねだりするような表情はどうやってやるんですか。
「え、と、べっ、別にかまわない、です」
だめ、無理、勝てない。
爽やかに笑う彼につられて私も笑った。
「でも勝手についてきたことは許しませんから」
猿飛さんの笑顔が固まった。
おそらく、今、私は怒っているのだ。
『荷物、少し持ってもらえませんか』
たったこれだけのことが言えない自分に。
本当に許せないのは、
猿飛さんではなく、
自分なのだ。
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