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無知の芝居


ぐう〜

というあまりに情けない音。
音源はお腹。




居間に居た五人のうち、四人の視線が一ヶ所に集まる。


私は、口を開いた。


「出掛ける前に、ご飯にしましょうか」




あぁ、幸村。









ここはあなたが腹を鳴らすべき場面だろう。


ホント、期待外れな人。
(ごめん。八つ当たりね)



どうして、


どうしてこの場面で。











私なんだ。




私の、馬鹿。











「みなさんは、適当に片付けを始めててください」


逃げるように、タッパーを抱えて台所へ向かった。



昨夜、私が彼らに食べてもらおうと用意したタッパーは、
手が付けられずにそのまま机の上に放置されていた。


「まだ春だし、腐ったりはしてない…はず」


電子レンジに入れる。

すると、案の定というか、
期待通りというか、
猿飛さんが覗き込んできた。


「名無しちゃん、手伝おうか?」


さすが。
食べ物に毒が盛られないか見張るためか、
はたまたオカン魂が電化製品という強い味方に反応したのか。

どちらでもいい。
私はあなたのギャップが好きだ。


「グッジョブです猿飛さん」

「?」


彼が台所へ来てくれたおかげで、見落としに気付いた。


私としたことが。

『電化製品の説明』
というイベントをし損なうところだった。



「猿飛さん、これ、あなたの時代にはありました?」

「いや…見たことないけど」

「これは電子レンジというからくりです」



私のお気に入りのサイトでは、どういうふうに説明していただろうか?


「まず、食べ物や飲み物をこの中に入れます」


電子レンジに入れられた肉じゃがの入ったタッパーを示す。


「操作をして、暫く待っていると、温かくなります」


ヴーンという音を立て、中でタッパーが回りだすのをしげしげと眺める猿飛さん。


「ふーん。昨日俺様が触ったときはなんにも起きなかったのに」


生『俺様』。
落ち着いてから聞くと、悦びも三倍(当社比)だ。


さすが猿飛佐助。

地味ながらも期待に応えてくれる。



やっぱり…

「買い物もあなたと行きたかった!……使わないときはコンセントを抜いているので動きません。地球の為です」


「え?何?」


「コンセントは、これです。これをここにささないと動きません。危ないので、口に入れたりしないでくださいね」


するワケないか。


猿飛さんは微妙な顔。

説明が分からなかったのか、
子供みたいな扱いが嫌だったのか。



「ところで、武器の話はどうなりました?」

「…あぁ、真田の旦那のは俺様が預かるよ。…竜の旦那と右目の旦那は分からないけどね」



ここで引っ掛かる私ではない。



「竜の旦那というのは片倉さんのことですか?」

「あはー。違うよ。竜の旦那は青い方」

「そうなんですか」


自然に不思議そうな顔が出来ていることを願う。




「ねぇ、名無しちゃん。料理は何?」

「肉じゃが、です」


オカンの味。
ただし作ったのは残念なことに私だ。


「…にく、じゃが?」


首を傾げる猿飛さん。


「へぇー。それはどんな料理なの?」



次は芝居でもなんでもなく、私は不思議そうな顔をした。



「え、肉じゃが、知らない?」







肉じゃがはビーフシチューを真似て作られた料理。
ただし、最初に作った料理人はビーフシチューを知らず、人の話のみを頼りに作った。
家庭に普及したのは昭和30年代後半。




「し、知らなかった」




戦国BASARA御一行

〜初めての未来食〜
『肉じゃが』


そんなタイトルが頭に閃いた。

しかしあまりに、



「切ない…」



チーン♪




タイミングを見計らったかのように、電子レンジが音を上げた。



「名無しちゃん?どうしたの?」



携帯を見つめ、半泣きな私に、猿飛さんがやさしく声をかけてくれた。



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