おふぼつ合コン編
「榛名!頼む!急だけど、今日の合コンに参加してくれ!」

今にも土下座しそうな勢いで頼み込まれ、榛名は眉を寄せた。

「ハルナが来るって条件で、モデル集めてもらったんだよ!」

「来てくれなきゃ、ソッコー帰られちまう!」と下げられた頭が仲の良い先輩のものでなければ榛名は一瞥を向けることすらなく断っていただろう。
しかし彼は縦社会に生きる榛名の先輩で、しかも、ともすれば身勝手にみえるほどストイックな榛名を降り注ぐ悪意の目から何度も庇ってくれたことのある恩人だ。
その彼が「この通り!」と頭を下げるのだから、なるだけ願いを叶えてやりたいと思うのが人情である。
だが、榛名はどうしても乗り気になれず、口を尖らせた。

「……それって今日じゃなきゃいけないんすか?」
「ああ!お願い!お前、明日暇だろ?だから、なっ!」

頭と反比例して高く上げられていく合掌に榛名はため息を吐いた。

「……わっかりました。その代わり、俺が先輩の狙ってる娘と仲良くなっても恨まないでくださいよ」
「ありがとう……、って、ムカつくなお前!」

バシバシと背中を叩かれながら榛名はトイレへとフェードアウトする。
トイレに着くと、ポケットから取り出した携帯電話のリダイヤルボタンを押し、一番先頭の名前に電話を掛けた。

『もしもし』

短い呼び出し音のあと、つい一時間ほど前に聞いたばかりの低い声が鼓膜を揺らした。
その時は夕食に何を食べたいかなどたわいもないことを話した。ガッツリ焼き肉を食うことで決定した。
モデルと合コンということは、ガッツリ焼き肉というわけにはいかないだろう。榛名の無念さを代弁するように腹がぐぅぅぅと鳴いた。

「あ、タカヤ?」
『はい。どうしました?やっぱ肉気分じゃないですか?』

幸いというべきか、不幸にもというべきか機嫌が良いらしく、阿部は普段より饒舌だ。

「あー、あんな、えっと……。今日の約束な、またにしていいか?」
『は?』
「だから!今日、行けなくなった」

曖昧に伝えて何か得があるものでもない。一思いにきっぱりと言うと、通話口から冷気を感じるほどの深い沈黙が耳を刺した。

「また!また別の日!埋め合わせするから。叙々苑行こう……」
『いいです。どうせこんなことだろうと思ってました。じゃあ』

冷静であるが、その分失望の滲んだ声を最後にブツリ、と電話は切られた。
榛名は慌てて電話を掛け直したが、繋がらない。

『ごめんな』

仕方なくメールに切り替え、送信ボタンを押そうと親指を向けたところで、榛名ははたと、なんで俺が謝んなくちゃいけねんだ!と思った。
俺は悪くねぇ。約束を破ったのは悪かったかもしれねぇけど、それはフカコウリョクってやつだ。それをアイツは……。
「どうせこんなことだろうと思ってました」という穏やかといえるほど落ち着いた声が頭のなかでリフレインする。そこにあったのは、榛名に対する絶対的な不信だ。その根はすでにわかっている。もう何年も前のことになるのに面倒臭い奴だ。
いっそのこと「知らねぇよ、あんな奴」と切り捨ててしまえればいいのに、榛名はなぜかどれだけ面倒で生意気だろうと阿部との関係を断つ気にはなれない。

『今度、游玄亭行こうな』

と打ってやっぱり消す。
タカヤはもうちょっと俺を尊敬して崇めて靴を舐めるべきだ。
"榛名元希"と食事をともにできることは特別なことなのだ。タカヤはそれを全然解ってない!
結局

『今度、游玄亭連れてってやる』

と打って送信した。
これでよし、と榛名は思ったが、胸をざわざわと逆撫でする不安を拭いきれず『うまいぞ』と続けて送信した。
しかし、合コンが始まる頃になっても阿部から返信はなかった。
初期設定のままの簡素な待受画面を見つめて「性格ワリ」と榛名は呟いた。
阿部を怒らせるとあとが怖い。そこらのゴキブリホイホイよりずっと粘着質な男なのだ。一度そっぽを向いてしまった阿部が再び振り返るまで長い時間が掛かることを、榛名はすでに実証済みである。
だから榛名はできる限り下手にでてやっているというのに、阿部はその思いを一掬いも汲み取ってはくれない。
それどころか榛名を非人間の糞外道だと思っている節がある。
榛名の憤りは合コンが始まっても続き、先輩に「笑顔、笑顔」と注意されてしまったことで、より大きく膨れ上がった。
何で俺が怒らえなきゃいけねぇんだ、悪いのはタカヤだろ。
阿部がただ一言『さすが元希さん素敵最高抱いてください』とメールを返してくれれば、沸々と煮える苛立ちも燻る不安もすべて吹き飛ぶのに。
榛名は全身から隠しもせず阿部への呪詛を立ち上らせたが、それでも右側には「ハルナさんってぇ、なんか思ってたイメージとちがーう。実物の方が渋くてステキ」と絡んでくる女がいるのだから、イケメンというのは得である。

「……おいっ、榛名!」

鮮やかな彩りが層を重ね、まさしく宝石のように美しいカクテルをむやみやたらに混ぜ合わせドブ色を作ることに心血を注いでいた榛名は先輩に呼び出され、顔をあげた。

「どうしたんすかー?」
「お前、今から呼び出せる知り合いとかいねぇ?できたら話の上手の盛り上げ上手」

なんでも参加者の一人が来られなくなったらしい。先輩の持つ携帯電話から「モデル合コンが……、モデルがぁぁぁ……」という断末魔が聞こえる。

「えー、そんなやついませんよー 」

榛名はゆっくりと黒目を動かし、考える振りをする。
正直、合コンがどうなろうとどうでもいい。今はタカヤだ。
視線を巡らせていた榛名は輝くような白塗りの壁の隅にほとんど影と同化している極薄い染みがあることに気付いた。
目、鼻、口……。あれ、タカヤに似てね?
見れば見るほど似ている。目とする部分から液体が筋となって垂れた形跡があるから、あれは泣いている顔だ。
少し気分が良くなり、仕方がないから先輩に協力してやろうと携帯電話を触ると、メールが届いていた。

『約束です』

差出人はもちろん阿部である。

「……います!この時間ぜってー暇してる奴!話上手で盛り上げ上手!」

肩がビリビリするほどの興奮に榛名は、それまでが嘘のような元気のよさで言った。
阿部は一般的にいって話上手といえないが、榛名は話しているととても楽しい。盛り上げ上手なんてお世辞にもいえたものではないが、時折ツボをつくように榛名の気分をドキドキ(もしくはムラムラ)と盛り上げる。
「合コン」と言うと阿部は渋い声を出したが「イタリアン」と言うと二も三もなく釣れた。

「ちわ。久しぶりです、一ヶ月前からの約束よりモデル合コンを選んだ最低男」

それが榛名に対する阿部の第一声であった。
誘われたくせに、ピリピリと肌を刺激するような怒気を纏っている。顔に張り付けられた胡散臭いほど爽やかな笑みが憎たらしい。

「だぁかぁら、ちげーって。俺もいきたくなかったけど、無理矢理誘われて断れなかったの!」
「どうだか」
「ホントだって!そういうタカヤこそ、モデル合コンに釣られたんじゃねぇの?」

疑り深くジト目を向ける阿部の口にシーフードピザを捩じ込んでやる。

「イタリアンに釣られたみたいな風にしやがって。このムッツリめ」

からかってやると、阿部は眉を吊り上げて

「違いまふ!俺はアンタに会えるから……」

と言い、途中でハッと目を大きくすると余計なことを言ったとばかりに、手の甲で口を拭った。

「なんでもないです」

それきり阿部は黙ってしまったので、榛名は「ホントだからな」と念押ししておく。

「あ、センパイ!コイツ、タカヤです。俺んコーハイ」
「あっ、阿部隆也です」

榛名の雑な紹介に習って阿部は深く腰を折った。
次に顔を上げた阿部はウットリとした目で先輩を見つめ「あのっ、あとで、サインいただけ……」と言いだしたので榛名は慌てて阿部の両目を手のひらで覆い隠した。

「……なにしてんだ?」
「別に。なんかちょっとムカついて」

確かにセンパイは凄い選手だけど、俺だって凄い選手だぞ。そういうアコガレの視線は、俺に向けるべきだろうがコノヤロウ。


阿部は期待されたような陽気な男ではなかったが、人見知りをしなかったし、なにより彼がいると榛名が威圧感を発しないので、何度席替えをしようとも一番人気の榛名が彼の隣から離れないという弊害を発生させた以外はあっさりと場に受け入れられた。

「タカヤ、旨いか?」
「はい」
「楽しいか?」
「はい」
「感謝しろよ」

ムニムニとピザを咀嚼する阿部の頬袋をつつきながら榛名は言う。

「そうですね。誘われなかったら、こんな店一生来なかっただろうし、ああいう職業の人とも一生知り合えることもなかったでしょうしね」
「へ?」
「え?」

榛名と阿部は顔を見合わせた。

「お前、もしかしてこんなかの誰かとケー番交換したの?」

まさか。こんなニブチンの朴念仁がモテるなら、アオミノウミウシは今ごろモテモテだ。

「はい」

聞かれたので教えた。合コンとはそういう場だと聞く。「こういう場なんだから当たり前でしょ?」と阿部は頷く。
阿部としては部員とメアドを交換するのと同じ感覚である。そこに付随する意味までは考えもしないどころか気付いてすらいない。
そんなことを知る由もない榛名はガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。

「どいつだ?」
「どうしたんすか?顔怖いですよ」
「いいから教えろ」

もともと乗り気でなかった合コンである。誰とどういう関係になろうという下心を榛名は持ち合わせていなかったが、その女とは付き合ってやってもいい気がしてきた。
「あの人です」と阿部が指差した女は参加者で一番背が高く、一番貧乳の女だった。

「ハズレじゃん」
「乳基準やめてください。それに俺のような一般人から見たら、あんな美人いませんよ。貧乳だけど」

阿部が彼女を庇うような発言をしたので、榛名はより一層燃えた。

「俺も番号聞いてこよーっと」
「いってらっしゃい」

予定ではもっと嫌な顔をさせるつもりであったのだが、阿部はあっさりと榛名を送り出す。

「……本当に聞いてきちゃうぞ。いいのかよ」
「だから、いってらっしゃい」

三橋に聞きにいくのなら命に代えてでも止めたが、先程知りあったばかりのどんな変化球が投げられるのかもわからない女に聞きにいくのなら止めやしない。

「もし余裕こいてんなら言っておっけど、俺さっきあいつにメアド聞かれたからな!いいんだな!あの女のメアド、俺の携帯に入っても!」

歯がみして悔しがり、あの染みのような泣きっ面で「やめてください」と言え、と榛名は思う。
それを堪能したのち、改めて聞きにいく。
榛名の望みどおり、阿部は歯噛みして悔しがった。

「……そんな言い方、ずりぃ」

頬が紅潮し、じっとりと目が潤んでいく。榛名が想像していたより、ずっと真摯な顔つきだった。「入ってもいいわけ、……ないだろ」
榛名の携帯に彼女のメールアドレスが登録されるなんて嫌だ。榛名と彼女がメールや電話をやり取りし合う仲になるなんて嫌だ。榛名と彼女が付き合いだしたりしたら嫌だ。
だって、俺は元希さんのことが――。

望んだことであるはずなのに水膜を厚くしていく阿部の目に、榛名は止めろと思った。
そんなにあの女のことが好きなのか?そんな顔をするほど?そんな声を出すほど?

「元希さん」

不意に名前を呼ばれて、榛名の心臓は小さく縮んだ。
タカヤが俺を呼んでる。タカヤが俺を見てる。タカヤ。タカヤ、タカヤ、タカヤ、タカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤタカヤ……。
ぱちり、と一度瞬きをして次に目蓋を持ち上げた時、榛名は恋に落ちていた。
俺、タカヤが好きだ。
自覚するとともに縮こまっていた心臓は大きくなり、全身に愛を届ける。

「タカヤ」

「好きだ」「結婚してくれ」「犬を飼おう」「子供は野球チームが出来るくらい欲しい」。榛名は言おうと口を開いたが、恥ずかしくて声にならなかった。

「……ど、どうかしましたか?」

突如、電源が入ったかのように輝きだした榛名の目に阿部は恐る恐る聞いた。

「タカヤ」

答えは呪文のような呟きだけだった。
この人はイルミネーション搭載のロボットか何かだっただろうかと阿部は考える。
それほど榛名の黒目はキラキラと輝いていていた。それは満天の星空のようで見るものに希望を抱かせる。しかし、その周りで血走る白眼も同じだけ青光りしていた。
つまり、どういうことかというと、榛名の目はやばい感じに光っている。

「タカヤ」

また榛名は呟く。

「なんすか」
「タカヤ」
「なんすか」
「タカヤ」
「なに!」

終わりの見いだせない問答非常に細い阿部の堪忍袋の緒はブチブチとその糸の一本一本を減らしていく。

「タカヤ」
「なんだ!?」
「タカヤ」
「だから、なんだって……」

緒が完全に切れるまであと糸一本、というところで榛名はやっとまともな言葉を発した。いや、まともではなかったか。

「浮気者にはお仕置きな」

阿部の堪忍袋の緒が切れるよりずっと前から、榛名はとっくに頭が切れていた。

力任せに連れ込まれたトイレで、洋式便座に体を押し付けられ阿部は屈辱に呻いた。

「な、にするつもりだ……?」
「わかんね?」

分かる。下半身を覆うすべての布を剥ぎ取られ、榛名に見えやすいように尻を持ち上げさせられると、いよいよこれが質の悪い冗談でないと分かってしまう。

「なんで!?」
「なんでって、お前こそなんでだよ」

俺というものがありながらよそ見をしたのだ。お仕置きされて当然だろう。どうしてそれがわからない。
「質問を質問で返すな!」という阿部の台詞は、体の上で何かが水たまりを作るドロリとした感触に遮られた。
ヌチャヌチャと音を立ててそれは塗り広げられていく。鼻をつく独特の匂いからそれがテーブルに備え付けられていたオリーブオイルだとわかった。
武骨な手が滑り太股、尻、脇腹と滑っていく。乱暴であるが、的を射た動きだ。

「や、やめろ、やめろよ」
「やめない」

やめられるものかと榛名は思う。大好きなタカヤに触っているのだ。体の外側から内側まで、余すところなくすべて触りたい。
つぷ、とオイルに溶けた穴に指を入れてやると、すぐに榛名の進入を拒もうと縮こまった内壁に当たり、指は行き場をなくした。
仕方がないので榛名は一旦指を引き抜くと、既に小さく反応を見せる阿部のペニスへと手を回した。ぐじゅぐじゅと動かされながら首の付け根を噛みつかれ、阿部は肩を震わせた。しごくごとに、手にまとわりつくぬるつきが、量を増していく。これはもうオイルだけの滑りではないだろう。

「っう!ぁ、あ、あ、あ……」
「カワイイ声だな」

からかうような台詞に阿部は唇を噛んだ。思えば、ここは飲食店のトイレだ。誰かに気づかれたりしたら……。

「もう、声ださねぇの?」

からかうつもりなどなかった榛名は心底残念に思う。しかしすぐに我慢などできなくしてまた啼かせればいいと思い直し、阿部を責める手の形を変えた。
人差し指と中指がカリと亀頭に伸び、容赦なく擦り始める。先程しごかれていた時のような追いつめられる刺激ではない。終わりがなく、しかし慣れることもない拷問のような刺激だ。

「……っ!あ、ぅ、う……!」

指が動くたびニチュ、ニチュ、といやらしい音が鳴り、阿部の体から抵抗する力を奪っていく。

「くっ!……ぁあ!ふっ、ざ、けん、な……!」
「いい声」

さすがゆうきゃん。セクシー&キュート。
尿道口に指を当て優しく撫でてやると、面白いほど阿部の体が跳ねた。

「そんなここ好きか?」

覚えておこうと思う榛名の目に、必死で首を振る阿部の様子は映っていない。
タカヤ気持ちよさそう。もっと、もっともっとやってやりたい。サディスティックな愛情で榛名は献身する。気付けば、時計の長針が一周回っていた。
もう何度達したかわからない。散々弄り回され阿部の体が脱力したのを見ると、榛名は再度後ろの窄まりへと指をねじ込んだ。

「んっ!」

柔らかい。今度もまた内壁は指を締め付けたが、拒絶するような固さはなく、しゃぶられているようだ。
二本、三本と指を増やし、阿部の体を検分する。入り口のひだから指が届く限りの奥まで入念に触っていると、ある一点で阿部の体がビクビクと震えた。

「はっ……!ぅう、う」

歯を食いしばろうにも体に力が入らない。逃げることもできず、そこに触られることで発生する刺激にただ神経を甚振られる。
これ以上は駄目だ、壊れる……!
初めての快感に阿部が背を丸めて耐えていると、不意に腹を圧迫していた質量が消えた。
指が抜かれたのだと気付きホッと息と付いた瞬間、指よりももっと深く熱いものが入り込んできて、ごりいぃと前立腺を押しつぶした。

「――うぅぅぅ!」

目蓋の裏で火花が飛ぶ。

「これか」

ぐちゅ!ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……。
一度見つけた弱点を見逃してやる優しさなど榛名には存在しない。ピストンごとに抉られる前立腺に、阿部の体は痙攣していく。

「あっ、あ、あ、あ、あ……!!」

貫かれるごとにキュンキュンと圧を増していくナカに、榛名は堪え切れず奥に飛沫をぶちまけた。


コンコン、とドアを叩く音に榛名は「ぁい」と御座なりな返事を返した。

「どこ行ったかと思ったら、ここにいたのかお前。大丈夫か?」
「俺は大丈夫なんすけど、タカヤが、だめ、です」
「吐いてんの?」
「そりゃ、もう」

飛び散った阿部の精液を拭い、下品な言葉遊びに榛名の唇は楽しげに弧を描く。
便座に座る榛名の上に乗せられた阿部は、咥えこんだままのそれが最奥をかきまぜる刺激に声を上げてしまわぬよう、噛みつく勢いで榛名の頭に顔をうずめている。
感じる部分を擦られるのが嫌で二本の腕を屈強な体に鎖のように巻きつけるが、耐えるごとに力を増し、二人のあいだの隙間を無くす腕は榛名にとって親愛の証だ。

「オイオイ、大丈夫かよ!? アル中とかじゃないだろうな」
「多分、違う、と思います。タカヤ、そんな飲んでなかったし。……なぁ?」

榛名は阿部の体を軽々持ち上げると、勢いよく突き落とした。何度も。
そのたびに感じる部分が乱暴に擦られ、過ぎる快楽を外に逃がそうとする本能と声を出すわけにはいかないと思う理性のあいだで、阿部は頭がおかしくなりそうだった。
元凶である馬鹿を止めようと腕の力を強くするが、それを煽られているのだと勘違いした榛名は舌なめずりして、より激しく前立腺を犯す。

「おい!? 本当に大丈夫か!?」

耐えきれず歯列から洩れた阿部の嬌声を聞いた先輩は、驚いてドアを叩く。
簡素な蝶番が掛けられただけの薄っぺらなドアはガタガタと揺れ、今にも壊れそうだ。

「もときさ……。やめ、ろ」
「なんで? 俺、お前は俺んだって、先輩に見せてやりたい」

見上げる榛名の瞳は水晶のように澄んでおり、そこに常識や恥という概念が見受けられない。




こっからどうしていいのかわからないの…


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