アンタだけの歌姫?
ボ"カ""ロぱろのような、に"ほろ"いどのようなパラレル
榛名姉がちょろっとでてきます(ほんとにチョロですが…)

阿部隆也=本物の阿部くん
阿部タカヤ=ボ"ー"カ"ロ"イ"ド








高校入学祝いに母方の祖母から送られてきた桐の箱が、先日起きた地震で榛名の顔の上に落下してきた。


その箱は厳重に組み紐で結ばれ、祖母からは「寂しくなったら開けなさい」と言われていたので武蔵野第一高校で充実した日々を送る榛名は貰ったはいいがその箱をサイドボードの上に置いたっきり存在をすっかり忘れていた。


さて、落下した衝撃で紐が弛み蓋のずれた箱の中からは一枚のCDがはみ出ていた。
桐の箱とCDというなんともアンバランスな組み合わせに榛名は不思議に思ったが、寂しくなったら・・・という祖母の言葉を思いだし、このCDは祖母厳選泣きたいときにきく名曲ランキングがはいっているのかもしれないと思い、少し笑った。

「でもだとしたら、微妙ですよね」

そりゃそうだろう。あとで祖母に感想を求められたりしたら何と言っていいのか榛名にはわからない。

「そーだよな。俺、昔の曲とかわかんねぇし」

桐の箱を拾う榛名に、箱の中のCDが話しかける。

「問題はそこではないと思いますけど」
「…って、うわぁ!?」

いつの間にか箱の中には身長40センチメートルくらいの小さな少年がいた。

見覚えのある短い髪に凛々しい眉、生意気な垂れ目の少年はニコリと嘘くさく笑った。

「初めまして、ますたー。俺はう゛ぉうかろいどの阿部タカヤです」



と、いうのが一週間前のはなしである。
この一週間、榛名は眼科脳神経科精神科、果ては物忘れ外来まで通ったが異常はみられなかった。しかし、今も阿部タカヤは部屋の隅に座ってもしゃもしゃとサニーレタスを食べている。

念のため、本物の阿部隆也にも電話してみたのだが、不機嫌な声が「もう二度と電話してこないでください」と告げ、ものの三秒で電話は切られた。
隣にいた阿部タカヤが「嫌われてんですね」と口を歪めて笑った。

「てか、お前なんなの?」
「う゛ぉうかろいどの阿部タカヤです」
「んー、まずう゛ぉうかロイドってなに?」
「歌を唄うことができます。野球もできます」
「ふぅん??じゃあ次に阿部タカヤってお前、隆也?」
「はい、タカヤです」
「隆也じゃねぇじゃん」
「いや、タカヤですけど…」

これ以上会話が前進しなくなり、榛名は仕方なく秋丸を呼んだ。

幻覚であるかもしれないと榛名は思っていたのでこの一週間誰にも相談せず、阿部タカヤも榛名の部屋から一歩も出さないようにしていた。
そのあいだ阿部タカヤは、榛名の部屋を掃除したりラジオから聴こえてくる野球中継をもとにスコアブックをつけたり、サニーレタスを手で千切ったりしていた。

サニーレタスを千切る以外は榛名のよく知る阿部隆也の行動そのままである。



程なくしてやってきた秋丸は部屋の隅にちょこんと座る少年を見て、血の気が引いた。

「榛名…、誘拐は犯罪だってあれほどっ……!」
「してねー!」

じゃあ、なんだよこの子は…、と震える手で少年を抱き上げた秋丸は、その少年の顔を間近で見て強烈な既視感に襲われた。
いや、これは既視感をなんて曖昧なものではない。そう。秋丸はこの少年と確かに会ったことが…。

「隆也くんじゃないかコレー!!」
「隆也じゃねぇ!」
「いえ、俺はタカヤです!」


**


「とりあえず、落ち着こう」

叫びすぎてガラガラになった声を誤魔化すように秋丸は咳払いをした。

「ごめんなさい」
「オメーが勝手にテンションあがったんだろうがよ」

当然のように悪態をつく榛名を長年にわたり培った忍耐力でいなした秋丸は、榛名の横で小さくなって座る少年に目を向けた。

「えーっと…、君は誰なの?」
「う゛ぉうかろいどの阿部タカヤです」
「ボ―力口イドっていうのはなんなの?」
「それ俺がもうきいた!」

結局、榛名の話と阿部タカヤの話を総合してみると、こうだ。

榛名が祖母から貰った桐の箱から出てきた榛名がシニア時代バッテリーを組んでいた阿部隆也そっくりの少年、阿部タカヤは歌を唄うことと野球をすることのできる科学の限界を越えたきたロボットであるらしい。

「お前のお祖母ちゃん何者だよ」
「俺だって知ンネー」
「…それで、これからどうするの?」

秋丸は榛名にだけ聴こえるよう声を潜めた。

「これからって?」
「あの子のことだよ!いつまでも家族に黙ったままなんて無理に決まってんだろ。このままじゃお前、よくてショタコン、悪くて捕まるぞ?」

全部悪いじゃねえかと榛名は思った。

「どうする」と言われても…、と榛名は思う。こっそりと盗み見た阿部タカヤは暇になったらしくベッドの下まで流された榛名の洗濯物を引っ張り出してまとめている。その仕草も横顔も一つ一つが榛名のよく知る阿部隆也そのままだ。
榛名にはもうその顔をした少年を無下に扱うことはできない。

「なぁ。タカヤ唄ってみろよ」

とにかく用途ははっきりしているのだ。
変に言い訳するよりは素直に「これはう゛ぉうかロイドなんだ」と話したほうがよいだろう。

「歌…ですか?」
「ほか何唄うんだよ」
「…和歌とか」
「詠えんのか」
「詠えません」

小さな手で榛名のパンツをきゅっと握りしめ微妙な顔の阿部タカヤに榛名はぴんときた。

「なに、お前、歌下手なの?」
「なんでですか」
「音ズレっからだよ」
「ろぼっとなのでしないです。コーラスがつくわけじゃないし、そこまで歌下手じゃないです」
「……オイ、ケンカ売んなよ」
「……っ、ケンカなんか、売ってませ…」
「オレはムカツイタんだよ。下手じゃねェっつったな、テメーのコトバに責任持てよ?」

バチッと二人の視線が火花を飛ばす音に「っていうか、お前らなんで急にそんなテンションになってるの?」と秋丸は思った。



結果からいって阿部タカヤは音痴だった。
ある意味、ロボットらしさの全くないジャイアンの歌声がドアのない米屋の欲望のハードゲイといった有り様だった。

「お前、唄うためのロボットじゃねえの?」
「唄います。野球もできます」
「さっきから言ってっけど、野球できるってなに?」
「ポジションはキャッチャーが一番かっこいいです」
「バッカ、ピッチャーが一番カッコイーだろ普通!」
「二人とも!はなしズレてる!」



とにかく阿部タカヤは驚くほど歌が下手で野球のポジションはキャッチャーを希望する科学と杉田の限界を越えたきたロボットであるらしい。

「それで…、どうするの?」
「しかたねぇだろ、コイツは超絶に歌が下手なう゛ぉうかロイドなんだよ」
「くそお…っ」

いまだ謎のテンションを引きずっている阿部タカヤをよそに榛名と秋丸ははなしを進めていく。

「ま、いいけどな。でもお前がショタコンと呼ばれ出したら俺は距離をおかせてもらう」
「なんでだよ!?」
「なんでも、かんでも…」

秋丸が悪役然として眼鏡を持ち上げて見せたところで、耐えきれなくなったようにドアが開いた。

「元希うるさーい!」

そこは榛名の姉がいた。まさか秋丸がいるとは思わなかったようで、榛名の姉は取り繕うように服の埃を払う真似をした。

「あ、なおちゃん。お邪魔してまーす」

ひょいっと頭を下げた秋丸の横を山のような洗濯物が通りすぎる。

「コレ、洗濯お願いできますか?」

洗濯物の下の方に生えた足が話した。榛名も秋丸もあまりのことにポカンとしていたが、すぐにその正体に思い当たった。
洗濯物をかき分け今からでも誤魔化そうとする榛名とその榛名から距離を取り出す秋丸をよそに、榛名の姉は「はーい、いつもありがとう」と子供に使う柔らかい声を出した。



姉と秋丸の去った部屋で榛名は阿部タカヤを座らせた。仰ぎ見る榛名の視線は針よりも鋭く、氷よりも冷たい。

「お前、俺の部屋から出んなっつったよな」
「でてませんけど」
「じゃあなんで姉ちゃんにバレてんだよ」

仁王立ちで迫る榛名に阿部タカヤは潔白な心の持つ気丈さでもって視線を合わせた。

「俺がきたその日に、部屋に入ってきました。サニーレタスをくれました」
「お前、あのレタス元々持ってたんじゃねぇのかよ!?」
「持ってるわけないでしょう。できれば欲しいものです」

ピリピリと激高しそうになる榛名の耳に、母の「タカヤくん苛めちゃだめよー」という声が聴こえ、榛名はどっと肩の力が抜けるのが感じた。


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