ツンデレ一人相撲
リク!
戸田北で元希さんのことが大好きなタカヤ

毎度のことですが、リクエストに答えられた気がしませ……
いや、もう何も言うまい




時に態度は言葉よりずっと雄弁に感情を伝える。
間近で感じる元希の息の熱さ、蕩けた瞳、絡み付く腕に込められた力の強さに隆也はそれを知った。
「愛している」、「アイ・ラブ・ユー」、はたまた「月が綺麗ですね」。好きを表すどんな言葉でも表しきれないほど元希さんは俺のことが好きなのだ。

練習終わり。ロッカー室内に設置されたベンチに座る隆也は足をぶらぶらとさせて、相変わらず服を畳むということを知らない元希がぱっくりと口を開いたままのエナメルバッグのジッパーをねじ伏せ勝利するのを待っていた。
一人、また一人と人影の消えていくロッカー室。いつもなら溢れ出る服を押し込み力任せにジッパーを閉めるはず元希は、今日は何の気紛れか下手くそな手つきで服を畳んではやり直し、畳んではやり直しを繰り返していた。
「まさに女房」とからかわれて以来、元希の服を畳んでやることをやめていた隆也が「やっぱり元希さんに任せておけない。俺が畳んでやった方が絶対早い!」と苛々しだした頃、元希が「鍵は俺がやっとくから、先帰っていーぞ」と鍵当番に申し出た。
その時になってやっと隆也は、元希が何やら企んでいることに気づいた。気づいた頃には時すでに遅く、元希は隆也の隣に寄り添うようぴったりと座った。

「タカヤ……」

隆也の肩に手が掛けられ、熱っぽい目と対峙させられる。この目に隆也は弱い。

「な。いいだろ?」

甘えるような声音。
もしかして元希さんはわかってこの目をしているのではないだろうか、と隆也は勘ぐる。だとしたら、ここはきっぱりと拒否してやらなければいけない。
元希さんは俺のことが好きで好きで居ても立ってもいられないかもしれないが、俺はというと別段元希さんのことが好きなわけではないのだ。
いうなれば、貢ぐ者と貢がれる者。貴族と農民。そこにあるのは絶対的な上下関係だ。
つまり元希さんは本来、俺に腹を見せて尻尾を振って足を舐めるべき立場である。なのに、くだらない悪知恵を働かせてイニシアチブを掠め取ろうとしているのなら、容赦なく鞭を振るって自分の立場というものを教えてやらなければならない。

「なぁ……!」

焦らされて、元希の目はさらに温度を上げる。
やはり、と隆也は思った。しかしそれとは裏腹に隆也の唇は自然と「……いいですけど」と動いていた。結局榛名の目の魅力に逆らえなかったのだ。
お許しを貰った犬のように顔を輝かせた元希は、ぐりぐりと鼻の頭を隆也に押し付け始めた。好きという感情を塗り込めるように隆也にマーキングしていく。それを終えると今度は伏せられた睫毛の隙間へと舌を這わせる。舌先で細い毛を掻き分けていくと、塩辛い粘膜へとたどり着く。
他人はおろか、自分で触ることすらない場所を舌が優しく這う感覚に隆也は思わず身震いする。
ここを舐めると元希は、まっさらな雪原に足跡をつけるような興奮と満足感に包まれる。それは見ることができなくとも、眼球に掛かる息の熱さから隆也にもわかった。
この変態め! と隆也は思う。目を舐めるだなんて、しかもそれで興奮するなんて、アンタどれだけ俺のことが好きなんだ。好かれ過ぎてて、もういっそ気持ち悪いと隆也は思うが、言葉にすることはせず、ただおとなしく元希を受け入れる。
これは飴だ。俺と元希さんは付き合っているわけではないので、本来なら俺にこのような行為を受け入れる義理はないのだが、統治にだって犬の躾にだってなんだって甘いご褒美は必要だ。
少しの飴があるから、鞭はより鋭く鳴る。
独占欲の大きな器が満たされるまで、存分に隆也の涙を啜った元希は、今度は荒れ気味の唇に狙いをつけた。

「ゴラァ!」

だが、あと一センチというところで隆也からの強烈なボディブローに沈む。

「なにキスしようとしてるんですか? 俺が許したのは、目だけです」

冷徹に隆也は言う。

「目も口も変わんねぇだろ!」
「変わります。勘違いしてもらっては困るので、はっきり言いますけど、アンタがいくら俺のことを好きでも、俺は元希さんのことをそれほど好きじゃありません。要するに、俺たちは付き合ってません。キスってのは、好きな相手と、つまり付き合っている相手とするものです。付き合ってもないのにキスするなんて、おかしいでしょ?」

付き合ってもいないのに眼球舐めをするのはおかしくないのかと元希は思ったが、軽率に口に出して「そういえばそうですね」などと言われては堪らないので黙っておいた。

「今より先がしたいなら、もっと俺に好きになってもらう努力をしてはどうですか? 俺がアンタのこと好きって認めたら、キスしてあげますよ」

不遜に言う隆也の自信は決して自惚れではないので、元希は奥歯を噛み締める。
やっぱコイツ、セーカクワリィ……。元希は自分の趣味の悪さを恨む。
一方で隆也は、元希は大分趣味がいいと自画自賛する。
ホモのうえ、変態。ついでにサディストの気がある男からの好意など、普通の人間ならば十枚重ねのごみ袋に入れて、液体金属も溶かす溶鉱炉へ捨ててしまうものだ。
それを心がけ次第では前向きに考えてやると言っているのだ。こんなに優しい男が他にいるだろうか? いや、いない。元希さんはもっと俺を尊ぶべきだ。
そんな折りだった。
グラウンドのわきに設置されたトイレの影。薄暗く人目につかない場所で、元希が女の子に告白されているのを隆也は偶然見てしまった。
見覚えのある女だった。練習が始まる前に「この手紙を榛名くんに渡してくれませんか?」と声を掛けてきた女だと隆也は思い出す。文通が流行っているのかと思っていた隆也は、あの手紙がラブレターだったと知り、愕然とした。
今までも、何度かそのような頼み事をされ、元希に手紙を渡したことがあった。
もしかして元希さんはモテるのだろうか。ホモのくせに! 変態のくせに! サドのくせに!
首を振る元希が、妙に相手を気遣っている様子であったのも隆也の勘に障った。
俺のことが好きなら、女のケツを蹴るくらいの勢いで断るべきだ。あんな柔な断り方では、未練が残るかもしれないだろ。
生温い元希のやり方に憤りを感じながら、隆也は今まで元希は何人をあのやり方で振ってきたのだろうと思った。
砕け散った恋の欠片は、日が経つごとに大きくなり、彼女たちはいつかまたその熱い感情を元希に貢ぐ。元希がそうしているように。
貢がれるうちに情がわいて、そのうち元希は靡いてしまうのではないだろうか。隆也がそうであるように。

その日隆也は誰かのように服を畳むことをしなかった。

「鍵は俺がやります」

タオルが涎のように溢れているエナメルバッグの口が閉まるのを今か今かと待つ鍵当番に隆也は言った。

「タカヤ。チンタラしてねぇで、さっさと準備しろよ」

普段なら自分が待たせる側にも関わらず、ベンチに腰かけた元希は偉そうに唇を尖らせる。

「元希さん」
「あ?」
「さっきの子、結構可愛かったですね」
「さっきの子?」
「元希さんに告白してた子です」

「ああ。あん子か」と元希は普通に言う。どういうリアクションを期待していたわけでなかったが、隆也の短い導火線がチリチリと削れた。

「どうして断ったんですか?」
「どうしてって」
「可愛かったのに」

隆也の言葉はまるで彼女と元希が付き合うことを望んでいるように聞こえた。

「……タカヤ、お前何が言いたいんだ?」

眉間に皺を寄せた元希は、唸るような声で聞く。

「……アンタ! 俺のことが好きなくせに生意気なんだよ!」

眉をつり上げた隆也は、少し赤い目で元希を睨む。

「俺のことが好きなくせに、告白なんかされやがって……」
「はぁ?」
「俺のこと好きなくせに、俺を不安にさせるなんて……」

ブツブツ言いながら、隆也は元希の膝の上に乗り上げた。元希の太ももと隆也の股関節が密着する。騎乗位みたいだと元希は思った。

「え、ちょ……。タカヤ。お前ホントになにが言いてーの?」
「俺は、アンタのことなんか好きじゃねーけど。だから、元希さんが誰と付き合おうが、関係ねーけど。でも、元希さんは、俺の、で。だから、その……」

目だけでなく頬も赤く染めた隆也は、決心したように顔を上げると元希に向かって「んっ」と顔を突きだし目を閉じた。

「ん?」

わけがわからず元希はとりあえず目の前の顔を観察する。思慮深さを称えた目が隠されると、頬の丸みが強調され、随分幼い顔つきになる。
しばらくして、隆也は眉をひきつらせながらゆっくりと目を開いた。

「今のなんだったんだ?」
「アンタなんか、キライだ!」

猫のように叫んだ隆也は、ぽかんと半開きになった元希の唇にキスを落とした。



やさしいかいせつ
「んっ」は榛名からのキス待ちです

リクエストありがとうございました!


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