ナツさん ちゅちゅぺろぺろ 2011
なつたん2011!
いつもお世話になっている「Still Waiting」のナツさんに捧ぎます



「どっちでもいいです」

リンゴジュースにするかオレンジジュースにするか。
そう聞かれたときのような心底どうでもいいと言いたげな返事が、榛名の告白に対する阿部の答えだった。

「どっちでもいいってなんだよ」
「どっちでもいいんです。……アンタ、俺と付き合いたいの?」
「お、ぉう」
「じゃー、いいよ。付き合おう」


そして二人は付き合いだした。

キスはまだしていない。手を繋ぐのも。
こういうのって付き合ってるっていえるのか!? と、榛名は携帯電話に目を落とす阿部の横顔を眺めた。
青白い光に照らされた横顔は、頬の赤みも毛穴の一つも見えず人間味がない。

そもそもコイツは本当に俺のことが好きなのか?

榛名は今、自分の頬が赤く染まっていることを自覚している。
緊張しているのだ。好きな人のすぐ隣を歩いているから。

一方で阿部の頬に色はない。
榛名に対して特別な意識を持っているどころか、存在を認識していないようにすら思える。

「元希さん」

そんなことを考えていたところだから、くるりと振り向いた瞳に映る自分の疑心に満ちた表情に榛名の肩は飛び跳ねた。

「ぅへっ!?」
「携帯、鳴ってます」

携帯電話の入った胸ポケットをつつかれる。
指先で押されただけのその振動は携帯を貫き榛名の心臓をドキドキと揺さぶった。

「えっ!? あぁ、ホントだ」

着信は後輩の捕手からだった。
明日のメニューの確認と、筋トレに関する質問。

電話の向こうの相手と親しく話す榛名に阿部の物言いたげな視線が突き刺さる。

「……んー。おぉ……、じゃあな」
「誰すか?」

携帯電話が耳から離れた瞬間、阿部が聞く。

「あ? 清水」
「誰すか?」
「コーハイ」

「フーン」と阿部は興味無さげに鼻を鳴らしたが、二つの足は隣を歩く榛名を拒絶するようにスピードを増していった。

「仲良いんですね」

榛名の前を歩く背中が低い声で言う。

「おー、まあな」

やる気のある奴だし、結構可愛がってる。

スタスタと歩く阿部に追い付き、榛名は再びその横顔を覗き見て驚いた。
阿部の目は不機嫌に半分閉じられ、目頭には皺が寄っている。

なんかタカヤ、怒ってる?

早足に歩く阿部の息はいつもより荒く、頬には少し赤みが差していた。

「お、おい、お前なに怒ってんだよ」
「……べつに怒ってないけど」
「怒ってんじゃねえかよ!」

怒りに張った阿部の肩を捕まえ、振り向かせる。

「タカ……」

素早く振り返った阿部の瞳は怒りに燃えていた。瞳に映る榛名も戦闘体勢だった。
タカヤ、テメェ何が気に入らねぇつうんだよ、ちょっと俺の好きな人だからって調子のってんじゃねえぞ。
そう言うつもりだった。現に榛名は大きく息を吸い込み「タ」の形に口を開けた。

不意に下唇を覆った自分以外の体温。
表面は乾燥して荒れているのに、その感触は吸いつきたくなるほど柔らかだ。
去りゆく間際、触れていたそれからピチャという音が鳴った。

「こういうことする後輩は、俺以外許しませんから」

持ち上げていた踵を下ろした阿部はいつもの色のない表情で言う。
あまりにいつも通りの無表情に、榛名は夢と現実の区別がつかなくなりしゃがみこんだ。

「なに座ってんですか? 寒いんですけど」

文句を垂れる阿部によっぽど何か言ってやろうと思ったが、唇に残った暖かさは紛れもない現実で、榛名はしばらくそこから立ち上がれなかった。


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