ショタ狐物騙り(パラレル)
狐っこ榛名と大学生阿部のハートフル物語だよ!


あ、軽いエロ入ります(ハートフルなのに)







「憑いてますよ」

大型ショッピングモール二階。
騒がしい店内で、そこだけ切り取られたように佇む小さな占いの館。
その店の傍を通りかかったとき、阿部は店の主人と思わしき人物に呼び止められた。

「は?」
「あなた、恋愛運に恵まれてないでしょう。霊があなたから女性を遠ざけているんです」

酷くしゃがれた声。やせ細った指。
頭からかぶった黒いベールが、占い師の性別すら覆い隠している。

「俺、そういうの信じていないんで」

間髪いれずに阿部は首を振った。
理系男として、そんな非科学的なことを信じるわけにはいかないのだ。

「な、なんの霊なんですか!?」

しかし、阿部の隣の優男は幽霊も呪いも占いも信じていた。

「オイ、水谷」
「狐です」

するり、と占い師の手が水晶を撫でる。
その手をパチパチと静電気のようなものが包むのを阿部は見た。

「あなたに付いているのは狐の生き霊」
「キツネ!!しかも、生き霊!」

「きゃあ」と水谷は頬に手を当てる。
そして「生き霊って、死んでる霊より強いんだよ!昔アンビリバボーで言ってた!!」と、どうでもいい知識を教えてくれる。
「死んでる霊」ってなんだ。死んでいるから霊ではないのか。

「ど、どうしたらいいんですか…!?お祓いとかできないんですか」
「今はまだ、霊が隠れてしまっているのでお祓いは難しいと思います」

水谷の顔が青くなる。

「しかし、手はあります。巨乳もののビニ本と油揚げを用意して、部屋の中央に置きなさい。そうすれば、あなたに憑いている霊は姿を現します」
「よし、阿部!本屋行こう」

グッと拳を作った右手をへし折ってやりたくなる。
馬鹿なのか、お前は?
なぜ、今の言葉に疑問を抱かない。狐だから油揚げは分かるとして、なぜエロ本が必要になるんだ。

「ああ、馬鹿だったな。お前は…」
「だって、憑いてるんだよ!それに、ホラ!当たってるじゃん、アベ、童て」

……殺す!



緊縛雌牛徹底調教。
それと、3枚98円の油揚げ。

それを部屋の中心に置いて、じっと待つ。
5分、10分、20分…。

カチコチと時を奏でる目覚まし時計の長針が半周したところで、阿部は我に返った。

なにをやっているんだ、俺は。

たしかに俺は童貞だ。女運どころか、女との接点すらない。
だからといって、あんな胡散臭い占い師とへにゃ男の口車に乗るなんて、頭が沸いている。

冷静になると急に馬鹿らしくなって、阿部はエロ本に手を伸ばした。
字面だけで選んだが、中身を読んでみるとなかなかの当たり本だ。

巨乳を自称する女はだいたいデブだが、この本に出ているモデルは本当に巨乳である。細いのにむちむちした肌質が大変そそる。

……。

何気ない風を装ってぺらぺらとページを捲りつつ、阿部はティッシュに手を伸ばした。


ズボンを膝まで下ろし、擦る。
一人暮らし最大の利点は家族の目を気にせずオナニーに勤しめることだ。

「……ハァ…」

ゆっくりと飲み込まれていくように、徐々に意識が細まっていく。
あと少し。

「……ッ!」

――イク…。
と思ったその瞬間。


「タカヤー!」

何者かが背中にひっついてきた。

「へっ!?」
「タカヤ、なにしてんの?このあぶらあげオレの?なあ、オレ、タカヤのしてるの、おてつだいしたい」

舌足らずな幼い声が背後から聞こえる。
阿部は背筋が凍るのを感じた。
人に。というか子供に、オナってるところを見られた…。

恐る恐る背後に首を回すと、見知らぬ少年がそこにいた。
年のころは5〜6歳くらいだろうか。
キラキラと輝く無邪気な瞳の中に、引き攣った顔の阿部が映っている。

「えっと…、キミは、誰かな…?」
「はうなもとき!」
「…もときくんは、どうして、ここにいるのかな?」
「オレはずっと、タカヤといたぞ?」

首を傾げて子供は言う。電波ゆんゆん。
子供なんてものは、大概電波な生き物でそこが面白く可愛くもあるのだろうが、今、この子供のおかしさには恐怖しか感じない。

なぜ、俺の名前を知っている?親はどうした?っていうか、どうして俺の家に?

非常事態に弱い理系脳。
聞くべきことは山ほどあるはずなのに、唇はパクパクと動くばかりで、肝心の言葉を発さない。


「い゛ぅ!?」

不意に身体の中心に走った刺激に、阿部は飛び上がった。

「な、な、な…」

見ると、すっかり縮んだチンコに子供の小さな手が触れていた。

「おい!?何してんだ、離せ!」
「やだ。オレ、ずっとずっと、こおしたかったんだ。タカヤがはじめて"じい"したときから、ずっと」

声を弾ませて子供は囁く。
自慰。ピカピカのランドセルが似合いそうな子供には似合わない言葉だ。
しかし、子供の手はその意味を知っている。
的確な手つきでカリの部分をこねくり回され、快楽を与えられる。

「はっ…!あ、やめっ」
「こおやられるのがいいんだもんな。タカヤ、いっつもここさわるもんな」

思い返せばそうかもしれない。
しかし、なぜこの子供はそんなことを知っている?

「でも、こおされるのもいいだろ?」
「…あっ!」

柔らかな手のひらが亀頭を包んだ。肉厚な指先が尿道口を弄ぶ。

「あ゛、…ッ、あ」
「タカヤ、いま、キモチーのにイケないだろ?うまく、さきっぽだけいじると、そうなる」

「れんしゅうしたんだ」と子供は言う。

「このまま、ずっとキモチよくしててあげたいけど…」

亀頭責めという言葉が頭に浮かんだ。
竿の部分を擦らずに陰茎の先端だけを刺激し続ける性技で、これをされると射精することもできず、弄りまわす手が止まるまで延々と地獄のような快楽を味わうことになる。

多分、いや、まさしく。今、俺はそれをされている。

「やッ…!」
「でも、きょうはイカせてあげる。おてつだいしてんだもんな」

子供の手がもう一本、伸びてくる。
それが竿を擦り、追いあげられる。

「あうっ、あっ、あぁ……」

シャンパンのコルクが抜けるように、張りつめていたものが放たれるのを感じた。



……搾り取られた。年端もいかない子供に。
ショックで意識が遠退きそうになる阿部の目に、手に付いた精液を美味しそうに舐める子供の姿が映った。

死にたい…。

「たかや、たかや。だいじょぶか?」

虚脱感と絶望感に身を任せ、目を閉じようとする俺の頬を、子供が叩く。
やめろ。
お前の手、さっきまで俺のチンコ触ってただろ。

「……お前、何者だ」
「はうな…、はうなも……。はう、はう、は、る!なもとき!」

自分のお名前が上手に言えないらしいお子様は、もごもごと口を動かした後、改めてお行儀よく自己紹介した。
その様は大変可愛らしいのだろうが、さっきの今で暢気に可愛いなどとは思えない。

「そういうこと言ってんじゃなくて…」
「オレはカミサマ!」

えっへん!と子供は腰に手を置く。

「……お父さんとお母さんはどうした?」
「カミサマにオヤがいるはずないだろー!」

「オマエ、しんよおしてねーな」と子供は眉を動かす。

「まってろ、ショーメイしてやる」

身だしなみを整えるように、子供は髪を梳いた。柔らかな黒髪が揺れる。
すると、子供の頭部に三角の耳が現われた。それに目を奪われていると、今度は子供の尻にふさふさの尻尾が出現する。
黄金色に輝くそれは、例えるならそう。
――狐のような。

「……狐の、生き霊…!」
「カ・ミ・サ・マ!」



あの占い師は本物なのかもしれない。
たしかに俺は狐に憑かれていた。狐というよりは、狐耳にふさふさの尻尾というコスプレイヤーを両親に持つ家庭の子供と表現した方が近い外見をしているけども。

狐は榛名元希というらしい。
生き霊(もしくは神)になぜ、名前があるのだろうと阿部は思ったが、本人がそう名乗るのだから仕方がない。
彼は、その昔、阿部の前世のそのまた前世の祖父の友人の親戚の結婚式を挙げているときたまたま村を通りかかった飛脚のはとこと恋に落ち、将来を誓い合ったのだという。

「だから、タカヤはオレのおよめさんな!」
「いや、俺男ですから」

というか、俺の前世のそのまた前世の祖父の友人の親戚の結婚式を挙げているときたまたま村を通りかかった飛脚のはとこって、もはや俺とは何のかかわりもない人といえるのではないだろうか。

「ちーがう!」

これを指摘すると榛名は、頬を膨らまし俺の鳩尾にロケット頭突きを決めてくるので、二十三回指摘したところで止めた。  
つまり。

「オラ、肉ばっかりじゃなくて野菜も食わなきゃ駄目ですよ」
「タカヤだって、やさい、くってねーじゃん」
「俺はいいんです。大人だから」
「オレ、タカヤよりずっととしとってるんだからなー!」

二十三回指摘できる程度の期間、俺は榛名と同居している。

「だったら、ピーマンぐらい食って欲しいものですね。人間の世界ではね、ピーマンの苦みがわかるようになって、初めて大人と認められるんですよ」
「まじでか!」

目を丸くして耳を立てる榛名に「フフフ…」と阿部は悪い顔をする。
この狐は大喰のうえ自分勝手で、毎夜盛る悪癖を持っているのだが、それにさえ目を瞑れば、愛嬌のある可愛い狐だ。狐より犬と表現した方が適切かもしれない。

無意識にホームシックにかかっていたのかもな、と阿部は思う。誰かと食べる食事は美味い。


が、誰かが使った後の食器を片づけることほど、面倒なことはない。手間は同じだが、自分に覚えのないカピカピのご飯粒で手を傷つけた時の理不尽感といったら!

本日もその理不尽に憤りつつ、最後の皿を食器かごに収めたところで、阿部はハッとして顔を上げた。

「今何時だ!?」
「じゅ、じゅう、」

「いちにさんしごー…」と榛名は呟く。

「じゅうじ!」
「やっべ!」
「どうした?」
「俺、ちょっと本屋行ってきます!」

濡れた手のまま財布を掴むと、阿部は玄関へと走る。
今日中に用意しておきたい参考書があるのだった。

「どこいくんだ?オレもいく!」
「子供が7時以降に外に出るな!留守番しててください」
「こんなよなかに、こどもるすばんさせるなんてギャクタイだぞ!」

都合のいい時ばかり子供ぶる榛名は、阿部の足にひっついた。



近所の本屋は午後9時で閉店してしまったので、営業時間の長いショッピングモール内にある本屋に阿部は足を運んだ。
当然のように榛名も”憑いてくる”。

「こんなじかんなのに、ここは、こどもたくさんいるなー」
「アンタも子供でしょ」
「オレはちがうっていってんだろ」

きょろきょろと首を振る榛名の手を、脅しをこめて強く握る。
榛名を目視できるようになり、寂しさは消えたが煩わしさが増えた。

奴は、ショッピングモールや駅前など多くの店が乱立しているところに行くと、あっちへふらふらこっちへふらふら、糸の切れた凧のようにさ迷うので、ひとときも目を離せないのだ。

「あ、タカヤ!アイス、オレ、アイスくいたい」

このように。

「あとでね」
「か・ぬ・ん・ら・い・だー……。タカヤ!タカヤ!!」
「あとでね」

教えてはやらないが、大人の言う「あとで」とは「断る」と同義語である。


無事、目的の本を購入し、ギャーギャー騒ぐ榛名を誤魔化しながら歩いていると、ふとあることを思い出した。

このショッピングモールには、あの占いの店があるのだった。

泡を食う水谷の台詞を思い出す。

『ど、どうしたらいいんですか…!?お祓いとかできないんですか』

お祓い…。
そういえば、この狐に取り憑かれていることで俺の恋愛運はだだ下がりならしい。ただでさえ、女との接点がない生活を送っているというのに、運というイレギュラーさえ搾り取られてはたまらない。

「…ちょっと、付いてきてくれます?」
「あー?」

ぱちっと榛名の周りの空気が弾けた。
榛名は怒りや嫌悪を感じた時、静電気のようなものを発生させる某電気ネズミのような表現方法を行う。

「サーティーワン、三段重ねにしてやるから」

例の占い師のもとに連れていくからといって、阿部に榛名を除霊して欲しいという願いはない。
そう思うには、榛名は阿部の生活に少々馴染み過ぎている。
榛名の存在から、なんとか俺の女運を下げるというオプションだけを取り除いてくれないだろうか。


「あ…」

しかし、占いの館は潰れていた。

近くの店で聞いてみると、店主が突然倒れたのだという。あの日、阿部たちが本屋へ向かってすぐ、店主は原因不明の全身痙攣を起こし病院に運ばれたのだという。
命に別状はないらしいが、尋常でない様子で体を揺らしながら泡を吹くその姿は、まるで獣に取りつかれたようで、当分のあいだ店は休業するだろうということだった。

「ざんねんだったな」

阿部のもくろみを見通していたらしく、にんまり笑って榛名は言う。

「これにこりたら、にどとオレをオハライしてもらおうとか、かんがえるなよ」
「別に、ちょっと見せてみようと思っただけでお祓いしてもらおうとは思ってませんよ」

少し…、一瞬……、3分くらいは考えたかもしれないが、そこまで人でなしのつもりはない。

「さんぷんって、けっこうホンカクテキにかんがえてんじゃねーか!」
「ほら、アイス食わなくていいのか?早くしねぇと、店閉まっちまいますよ」
「アイス!」

握った榛名の手が、背筋が凍るほど冷たかったことに、阿部は驚いた。
振り返ると、榛名は無邪気に笑っていた。

「もうにどと、かんがえるなよ。つぎはころす」

笑顔のまま、よくわからないことを言う。

「それってどういう…?」
「オレな、だいなごんあずきとー、まっちゃとー、だいなごんあずき!」

阿部の質問を遮って、榛名は何もなかったように、「1、2、3…」と指を折り曲げる。

「…意外とセンス渋いんですね」

なぜか薬指まで畳んでしまった榛名が間抜けで、阿部は先程感じたはずの背筋の冷たさを忘れた。


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あきゅろす。
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