ナツさん ちゅちゅぺろぺろ
「Still Waiting」の水木ナツさんことナツさん(二度手間)に捧ぎます

鼻水垂らしたまま、ナツさん宅の誕生日企画に(文字通り)お邪魔する勇気がないし、気付いたら誕生日全然関係ない話になっていたので、自分ちでこっそり祝います
→と思ってたら、な!なんとナツさんがお持ち帰りしてくれました!ありがとうございますぅぅう!

hrab前提iz→ab
tj→ab、mz→ab含む





阿部が榛名さんについてアメリカに行く前日、花井主催で小さなお別れパーティが開かれた。

「三橋、みはしぃ……、絶対に忘れねぇからな。毎日手紙書くからな」

ミハコン(三橋コンプレックス)の阿部は、まるで自分が送る側であるかのように別れを惜しみ、先程から三橋の手を握ったまま離さない。

少し離れた場所で俺たちを監視している(誇張ではない)榛名サンは、阿部の様子に憎々しく顔を歪ませているが、声をかけるつもりはないようで静かに鯖の味噌煮をつまんでいる。

「なぁ、阿部!阿部!」
「三橋ィ……、メールも、電話もするからな……」
「阿部!阿部ってば!アーベー」

バッテリーの絆を表すように握られた手に躊躇なく自分の手を重ねて、田島は騒がしく阿部を呼ぶ。
「そっちばっか撫でてないで、俺も撫でて!」と主張する犬のようだ。

「……なんだよ?」
「俺もすぐメジャー行くから!待ってて!」
「田島もメジャー行くのか?」
「ああ!そしたら俺のカッコイートコ、たくさん阿部に見せられるだろ!」

ニカっと白い歯を見せて田島は笑う。
なぜか阿部の隣にいた三橋が「田島くん、カッコイイ!」と溶けている。
刺さる榛名サンの視線に、あからさまに狼狽える花井が面白い。

「田島は相変わらずだな〜」

呆れた声を出して、しかしその実、少し羨ましそうに水谷が言う。

「阿部はアメリカ行っちゃうのに。まだアタックしてる」
「アイツは阿部が結婚しても、自分が納得してなけりゃずっとあんな感じだろ」

俺の言葉に「ナットク、か……」と、水谷は真剣に呟いた。

「泉はいいの?ナットクしてる?」

俺の顔を覗き込んで水谷は聞く。
「してるわけないよね?」と顔に書いてある。
西浦における榛名サンの人望のなさが凄い。

「それとも、もう阿部のこと好きじゃない?」
「好きだよ」

俺も、阿部が好きだった。
高校の頃から、ずっと。

「俺たちには、そんな簡単に認めるのに阿部には絶対言わないんだね」
「ほっとけ」

俺は、長年抱えてきたこの感情を否定も誤魔化しも、榛名さんや田島のように阿部に直接伝えもしない。
その必要がないからだ。
俺が阿部に望むことは、付き合いたいとかそういうことじゃない。

「でも、今日くらい言ってもいいと思うけど。だって、阿部はアメリカいくんだよ。もうしばらく会えないんだよ。飛行機、堕ちちゃうかもしれないんだよ」

いい忘れたことがないようにしなきゃ!
そう言って水谷は阿部を囲む輪のなかに突入していく。
水谷は飛行機=墜落というアナログな思考をもっているらしい。
……そしてどうやら、俺もまたアナログな思考の持ち主であったらしい。


「阿部だいすきー!」

突入していった水谷はそう叫びながら、阿部に抱きついた。
ピクリ、とそれまで余裕を気取っていた榛名サンの顔がひきつった。

「俺も阿部好き!」
「そうか。俺は三橋が好きだ」
「お、俺も阿部くんが好きだっ!」
「ちょっと待ったぁ!俺もタカヤが好きだし、タカヤが好きなのは俺!」

水谷に触発されて、天然と天然と俺様と隠れ天然の告白大会が始まる。
狼狽える花井が面白い。

「いいか!?タカヤは俺と!こ・の・俺・と・一・緒・に!アメリカ行くんだ!!いい加減諦めろよ、ガキ共!」

テーブルの上に片足を乗せて熱弁を振るう榛名サンに慣れているのか興味がないのか、阿部は三橋のドリンクが空になっていることに気づき席を立った。


「阿部」

ドリンクバーで烏龍茶と玉川ブレンドを汲む背中に声をかけた。

「おー、泉。お前もジュース?」
「車だからな」

俺は、今まで自分の思いを伝えようとは思わなかった。
多くは望まない。ただ一つの望みが叶えばよかった。

でも、今日だけは。
恐らく長い別れになる今日だけは。

「俺も、お前のこと結構好きだぜ」
「そりゃありがとよ。俺お前に嫌われてると思ってた」

本気にしていないのだろう。振り向きもせず、阿部は答える。
阿部の声がストンと胸に落ちる。

「なあ、阿部。お前、今幸せか?」
「は!?」

唐突ともいえる俺の問いに、阿部は嫌そうに顔をしかめた。

「なんだよ突然」
「いいから答えろよ」
「……知らねぇよ、そんなの。これからの話だろ」

ちらりと一瞬だけ榛名さんを見て、阿部はごく小さく笑って答えた。

俺が阿部に抱く望みは、ただ一つ。
その小さな笑顔は、俺の唯一の望みを叶えるには十分なものだった。

「なら、それでいい」

お前が幸せなら、それでいい。







お誕生月おめでとうございます!


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あきゅろす。
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