乙女ちっくやんでれタイフーン
榛名がオトメン







四日前のことだ。
タカヤが、一日で五回くしゃみをした。

4時36分に一回、12時01分に二回、17時:08分に一回、21時19分に一回。
やけに音のデカイ、おっさんみたいなくしゃみだ。

幸い、次の日はしゃっくりを76回しただけで、くしゃみは1回もしなかった
が、最近めっきり寒くなったから、体調を崩しぎみなのかもしれないと俺は思った。

人には、「クーラーでカゼひいたりアブネー生モノ食って当たったりぜってえすんなよ!」とか言うくせに(しかも半脱げで!)、自分のことはおざなりなんてバカだな、アイツ。


そして今日。

風邪気味のタカヤにあげようと思って作ってきたマフラーと手袋が完成しました。

いつもより高い毛糸を使ったから、心地よい肌触りと保温力を兼ね備えた特別製。
色はタカヤが身につけやすい黒。
我ながらロフトにて2800円で売っていてもおかしくない出来だ。
一つ失敗したな、と思うのは、あまりに上出来すぎて、手作り感がない。
こういうものは、少し下手くそな方が可愛げがあっていいのかな……。

そうは思ったけど、俺の目的はタカヤにこのマフラーと手袋を付けてもらうことなので、上手くできている分には問題ないと思いなおすことにした。
変なの送って、タカヤがからかわれたら可哀想だもんな。俺のマフラーでタカヤがからかわれるんなら、優越感感じちゃわねぇこともないけれど……。

実は、マフラーと手袋と同時進行でセーターも作っていたのだけど、これだけは完成までにはまだ時間がかかるようだった。
三つ一緒に渡してやってもいいが、その間にタカヤが風邪をこじらせたら大変だから、先にマフラーだけ渡してやることにする。


と、いうことで、ラッピングを開始する。
丁度マフラーが入りそうなくらいのハート型の箱を組み立てて、リボンを結ぶ。
タカヤは照れ屋だからな。
包装はなるべくシンプルにしてやるのが正解。
こういうとこに気がつく俺、ちょー偉い。

小さな手紙を付けようかどうか最後まで迷ったが、実はタカヤは俺の手作りプレゼントを、俺が誰かから貰った物を流用して渡しているのだと思い込んでいるので、やめた。
いつも言いだそう、誤解を解こうと思っているのだが、俺の手作りだって知ったときにタカヤがどんな顔をするのか知るのが怖くて、躊躇している。

そうこうしているうちに、赤の箱に、黒と金のリボンを結びつけられたシンプルながらもかなり豪勢なラッピングボックスが出来上がった。
満足だ。



俺はうっとりと想像する。

「タカヤ、これ」
「なんですか?このすっごく綺麗な箱」
「開けてみろよ」
「……わぁ!マフラー!それに手袋も!」
「お前最近風邪気味だっただろ。人のこと気にするのもいいけどな、自分が風邪ひいたら元も子もないぞ」
「えっ!平気ですよ、これくらい」
「そのこれくらい平気ってのが、危ないんだ。暖かいからつけとけ。作った俺が言うんだから間違いない」
「え……?それって、もしかしてこれが元希さんの手作りってことですか?」
「はっ!ああ、……そうだけど」
「そんな、俺を心配して、わざわざこんな素敵なマフラーと手袋を作ってくれたんですか……?」
「……あたりまえだろ、それくらい」
「……もう、早くいってくれればいいのに……。ありがとう元希さん。それと――」
大好き。

なんてな!なんてな!

でも、大好きは欲張りすぎにしても、「ありがとう」くらいは言ってくれるよな。
タカヤって、そういうとこしっかりした奴だから。

ただでさえ下がっている目尻をさらに下げ、蕩けるような笑顔で「ありがとうございます」って……。



「帰れ!」

俺を見つけたタカヤは開口一番蕩けるような笑顔で言った。

「ちょっ、ひどい!」
「また、性懲りもなく、変なもん持ってきましたね」
「変なもんって!」

今日はイイモンなんだかんな!いや、今までもイイモンしかあげてねぇよ!
クソっ!こんなことなら、直接渡すんじゃなくて、タカヤの下駄箱に入れておけばよかった。

「変なもん持ってきたことなんてねぇだろ」
「まぁ、最近はね」

それでもタカヤは疑いに目を細めて全方位から俺を見る。
背後に大きな花束とかクマのぬいぐるみとか持ってないか確かめているのだ。
いっぺんやって「……こういうのって、逆に迷惑ですよね」って言われたから、もう二度となんねぇよ、そんなこと。ばかぁ!

「でも、いい加減、俺をアンタの貰ったプレゼントの処理係にするのやめてくださいよ」
「してねーよ!」
「じゃあ、アンタ、去年俺に押し付けてきた女の子らし〜〜〜ぃピンクと白で構成されていて、LOVEと描かれていたマフラーを使ってください。まだ俺んちにありますから」

去年の今頃、俺があげたマフラーのことを未だ言っているらしい。
ふわっふわのパステルカラーのヤツでかわいいタカヤには絶対似合うと思ってあげたんだけど、一度として付けてくれてない。
それどころか、人目見た瞬間「イタッ!」って呟かれた。
そのときは、「俺、これ貰っても一生使い時が見つからないと思うんですけど……。最悪捨ててもいいですか?」とか言ってたくせに、タカヤはまだ、そのマフラー持っていたんだ!

「で、今日はなんですか?」
「これや……」

鞄の中から、プレゼントを取り出す……って、ああ!
乱雑な鞄の中に突っ込んでいたせいで、プレゼントボックスの角が凹んでしまっている!
しかもハート形のとがっている部分が、だ!

「いや、な、ない!なんでもない!」
「いや、なんでもないことないだろ。今なんか、取りだしただろ」
「ちがう!これはぁぁぁ」

とがった部分のつぶれたハートマークなんて、ただの尻だ!
こんなのタカヤに渡せないっ!って思って、背中にプレゼントボックスを隠したのに、タカヤは首を伸ばして俺の背後を覗きこんでくる。
か、体が近い!

「やめろ、やめろよ!」
「そこまで隠されると余計気になるじゃないですか」

そう言って、タカヤはぎゅうって俺の腰に抱きついてきた。は、はれんち!

「どりゃ!」

俺が固まっている隙に、タカヤは俺の背中からプレゼントボックスをひったくった。

「……なんだ、いつもと同じじゃないですか。これ、いつもみたいに俺が貰ってもいいもんなんですよね?」
「うう゛……、そうだけど。あんなっ……、無理矢理っ……!」
「変な言い方すんな!」

鈍感で雑なタカヤは尻型のプレゼントボックスが気にならないどころか、気付きもしないらしい。
俺は、赤い箱には何色のリボンが似合うだろうとか真剣に考えていた昨日の自分がちょっと虚しくなったけど、そんな雑なタカヤも男っぽくて、好き。

「なんかこれ、開封したあとがないんですけど、アンタちゃんと中身確認しましたか?」
「したっつーの!」
「……ならいいですけど。貰ったものをどうしようがアンタの勝手だとは思いますけど、一番に中身を確認するのも、貰った当人であるアンタが行うべき最低限の義務だと思いますよ」

キュン!
タカヤ、優カッコイイ!(優しくてカッコイイ)

「大丈夫だよ!俺が一番に中身確認した!」

むしろ俺しか確認してない!

「じゃあ、いいですけど」

そう言ってタカヤはリボンを解いていく。
短気なくせに、複雑に巻かれたリボンが絡まないようゆっくりゆっくり慎重な指使いでリボンを扱っている。そういうとこが大好き!

「おお、マトモ」
「第一声がそれかよ!」
「普通にいい感じですね。ほんとにこれ貰っていいんですか?」
「あったりまえだろ!」

タカヤがいい感じって言った!タカヤがいい感じって言ったぁ!

「着けてみろよ」
「まだ、マフラーの季節には早いと思いますけど」

言いながらも、早速マフラーと手袋を身に着けたタカヤに俺は幸せな気分になった。

タカヤが手袋を嵌めているあいだを利用して、自然なしぐさでプレゼントボックスを返してもらい、凹んでしまった部分を直す。
うん、よし。

「似合うぜ」
「こういうのに、似合うもクソもないと思うんですけど」

そんなことはない。
だってこれはタカヤだけのために作ったマフラーと手袋だからだ。
むしろ世界中でタカヤにしか似合わないといってもいい。

「でも、ありがとうございます」

タカヤは少し頭を下げて、ぶっきらぼうに言った。

きゅるるぅん。



おわり








いつものように帰宅した阿部は、自室に入り、マフラーと手袋を机の中にしまった。

榛名から押し付けられた品は、使えるものも使えないものも、一様に机に保管しておくことにしているのだ。
そのため、阿部の机の中は榛名から貰ったぬいぐるみやらなんやで溢れかえって謎のファンシー空間と化している。

そんなファンシー空間を構成する8割が阿部には使えない乙女趣味のものであったが、使えないからといって処分する勇気が阿部にはない。
自分宛でなかろうと、あくまで貰い物であるし、なにかある種の念がこもっていそうな気がするので捨てることができないのだ。

そういう意味で、要らないからといって、自分で処分する勇気もなく人に押し付ける榛名を最低だな、と阿部は思っている。


中身を机の中にしまった阿部は、あとに残ったプレゼントボックスをもてあました。
包装紙ならば、四つ折りにしてこれまた机の中にしまっておくのだが、箱となるとそうはいかない。
包装品とはいえ、これも貰ったものの一部であるのだから、捨てるわけにもいかない。

結局阿部は、プレゼントボックスを机の上に放置しておくこととした。

机がより一層ファンシーになったが、阿部は気にならない。

弟の目から見ると、いかにも男っぽい殺風景な部屋に存在するファンシーデスクは、なんとも異様な光景なのだが、阿部は自分のことに無関心で無知であったので、そんなことに気づかないのだ。

そう。阿部は無知であるのだ。
だから阿部はなにも知らないし、気づかない。

まるで既製品のようなマフラーと手袋が榛名の手作りであることにも、マフラーに発信器つき盗聴器が縫い付けてあることにも、プレゼントボックスが実は二重底になっており、その中に小型カメラが仕込んであることにも。


不意に、寒気を感じて、クシュンと「タカヤ」はくしゃみをした。

やっぱりタカヤは風邪をひいている。多少、顔色も悪いような気がする。

はやく、はやく、セーターを完成しなきゃ、な……。








もうオチがどうこうっていうより、タイトルから酷いね

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!