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■青天の霹靂
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 夏樹と白石君は、必死に場を和まそうとしているけど、どうしたらいいか分からずにおろおろしている。

 そしてその横では私と商売敵がにらみ合っている。たまに口を開けば、

「うち(川岸)も大変ですよ。なんせこの業界大変ですからね、競争競争で。どっかさえなかったら、もうちょっと楽になるんですけどね。」

とか、

「そうでしょう、俺のとこも大変ですよ。近所にすぐ、ガソリンの価格を下げる会社があってねー。いくら売っても赤字ですわ。」

という話になる。
 どっかとは大和石油のこと、すぐ値段を下げる会社というのはきっとうちのことだろう。

 実際、スタンド業界ってのは数年前の特石法廃止で業界全体が低迷している。
 ガソリン価格の大暴落で会社の利益はがた落ち、赤字経営が当たり前になって、小さい会社は次々に店をたたむような現状だ。
 川岸も大和も、苦しいながらも営業を続けられるだけまだマシな方だ。しかし、この先いつ会社がつぶれるかは分からない。

 そんな背景も手伝って、うちと大和は昔に増して仲が悪い。

「まあまあ、二人とも。仕事の話をプライベートにまで持ちこむなって。」

 白石君が間に割って入る。確かに、これじゃあ仕事第一の人生みたいだ。
 折角のオフの時間、有意義に使いたい。
 商売敵だって、仕事外では長町健二というただの男の人。
 理屈はわかってるんだけど、感情がついていかない。 長町さんの顔には『商売敵』と書かれた紙が貼ってあるように思える。

「それじゃ、私帰ります。明日も早いんで。夏樹、白石君ありがとうね。じゃ、長町さん、ごきげんよう。」

 私は長町さんに向かって引きつった笑顔で言う。睨みを利かさなかっただけでも自分で偉いと思う。

 外へ出て、夏樹たちのいる部屋の前を通ると、中から、

「美恵子も、普段は楽しくていい奴なんですよ。ただ、仕事が絡むと立場上…。」

と言う夏樹の声が聞こえてくる。

 確かに、夏樹と白石君には悪いコトしたと思う。
 新婚家庭にお邪魔して、旦那の紹介してくれた人にけちをつけた上に、ケンカ腰の会話だもんな。
 それこそ、いい大人のする事じゃない。
 でも、私だけが悪いわけでもない。向こうの商売敵だって、同じケンカ腰できたんだもん。
 向こうが折れれば、私だって折れたわよ。私が先に折れれば、向こうだって折れたかもしれないけど。

 とにかく、夏樹の言う通り、仕事が絡むと立場上、甘い顔は出来ない。
 川岸石油、天神町SS。所長が頼りないのなら、NO.2の私がしっかりするしかない。
 じゃないと川岸天神町のみんなが路頭に迷う事になる…とまで言ったら大げさだけど。売上が落ちたりしたら、本社に何を言われるか。
 毎日ぴりぴりしながら仕事してきて、いいかげんストレスもたまってきている。
 長町さんに対しては、半分八つ当たりかも。ちょっと悪いかな、っていう気持ちはある。

「あーあ、結婚退職でも出来たらなぁ。」

 私は星空を見上げ、小さく呟いた。


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