■青天の霹靂
13
「シャワー、浴びよっか?」
私がベッドの上で、今起こった出来事を理解できないでいると、長町さんは笑顔でそう言って、私を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと、私重いでしょ、降ろして。」
私はびっくりしてそう言うが、
「何言ってんの、これくらい何でもないよ。」
長町さんはそう言って降ろしてくれない。そしてそのままバスルームへ運ばれてしまった。
私…何やってんだろ。嫌いだったはずの人とエッチして、一緒にシャワー浴びてる…。正確に言うと、洗われてる…。
考えただけで…、顔から火が出そう…。
「青木さん、仕事何時に終わるの?」
スタンドまで送ってもらった時、長町さんが言う。
「?八時まで。」
「そう、じゃ、仕事がんばってな。」
長町さんはそう言って帰って行った。
「主任ー。誰さっきの人ー。」
花緒がにやにやしながら近づいてくる。
「誰だっていいでしょ。あまり深く聞かないで。」
私はそう言って花緒を追い払う。「ふぅーん」と笑って花緒は向こうへ行く。
ダメだ、そのうち絶対感づかれる。
夕方、有馬が出勤する頃がやばいだろうなぁ。
そして
「おっはよーございまーす。主任ー、昨日あれからどーなりましたぁ?」
有馬は出勤した途端、そう言いやがった。すると近くにいた花緒が、
「え?有馬君、昨日一緒だったの?主任、今日男の人に送ってもらったのよ、黒のアコードワゴンの。」
そう言って有馬に尋ねる。
「ふぅーん。」
有馬はそう言ってにやにやしながらこっちを見るが、それ以上は何も言わなかった。
有馬が黙っていてくれるのは、ものすごくありがたい。じゃないと、相手の素性が知れたとき、花緒に何を言われるか。
それに、昨日…正確に言えば今日の事は、私も忘れてしまいたい。なんであんな事しちゃったんだろ。
押し倒された時、長町さんの言う通り本気で抵抗すれば良かったんだ。そうすれば、こんなに混乱する事なかったのに。
きっとあのまま、普通の知り合い程度で終わったはず。
なのに、この曖昧な関係は何?
大っ嫌いだった人。
そりゃ、いい人だって分かったから、今は嫌いじゃないけど。
確かに、白石君に紹介してもらってから知り合いだったけど、仲良くなったのなんて今日の朝。
しかも付き合ってもない人と、体の関係持ったなんて…。
なんて純情ぶる歳でもないんだけどね。こんなことの一つや二つ、あったっておかしくない。
でも、理想としては、やっぱり好きな人とじゃなきゃ、嫌だ。って言っても、例え好きな人がいようが、自分から行動する若さはもうないけど。
それに。長町さんに抱かれた時、嫌じゃなかったんだよね。
確かにびっくりはしたけど、全然抵抗しなかったんだ。長町さんの体温が、暖かくって、すごく心地よくて。
そして時々囁かれる、『かわいいいよ』とか『綺麗だ』といった甘い言葉に、しっかり酔ってしまった。
でもあんなの、言われたのは初めてで…。
ダメだ!思い出すと顔が熱くなって、しかも頭が混乱する。
しかも仕事が手につかなくなる。
今朝の事はすっぱり忘れて、仕事に集中しなければ。
午後八時。
「じゃ、私あがるけど後お願いね。」
私は表にいる社員の竹原と、有馬、その他のアルバイトに声をかけ、控え室に入った。
あとは雑用を終わらせて、今日の業務は終了。
この雑用も前に比べて増えた、増えた。めんどくさいねぇ。
「終わったぁ!」
私は一人そう叫んで、椅子に座ったまま大きく伸びをした。その時。
「しゅっにーん、お客さーん。」
そう言う有馬の声が聞こえた。控え室を出ると、にやにやした有馬と…長町さんがいた。
「え?どうしたの?」
私が言うと、長町さんは後ろ手に持っていた花束をいきなり目の前に出してきた。
「?」
私が驚いてると、長町さんは真剣な顔で言った。
「順番が違ったけど…。俺と付き合って欲しいんだ。」
まさに青天の霹靂だ!
END
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