■青天の霹靂
11
「で、引きうけちゃったんですか。主任、頼まれると断るの下手だからなー。」
仕事を終え、バイトの有馬とすぐ近くの居酒屋へ夕食…というか、憂さ晴らしにちょっと一杯…。
「でも、ま、いいんじゃないっすか?主任が所長になろーが、西本所長が辞めよーが。実際、ほっとんど、今と変わんないし。」
有馬はそう言ってケラケラ笑う。こいつは相変わらず、ずけずけ言う奴だ。
私は残り少なくなった梅チューハイを一気に飲んで、ジョッキを置いた。
次はノンアルコールにしとこう。そう思って店員を呼ぼうとした。
「いらっしゃーい。」
カラカラと入り口が開いて、新しい客が入ってきた。そして、
「あ、有馬君!」
そういう女の子の声が聞こえる。呼ばれたのは目の前の有馬かい?
「塚本?うわぁ、久しぶりー。」
有馬はにこにこしながら立ちあがる。なんだ有馬の知り合いかい。
「塚本も一緒にどう?」
有馬はその女の子を誘う。
「え?でも彼女と一緒なんじゃ…。」
女の子がそう言い終わる前に、有馬は大爆笑。
「違うって、バイト先の主任。第一、俺より八つも上だぜ。」
そう言ってまた大笑いする。ほんとーに、失礼な奴だ!
「そう、よかった。あたしも会社の人と一緒なの。所長ー。」
その声に呼ばれて現れたのは…。
「あっ!」
二人ともがそう言って、またその後黙ってしまった。
よりによって、なぜ商売敵…。
「すんません!生中一つ!」
ノンアルコールのつもりが、アルコール。
責任者となれば、勿論大和に負けるわけにいかなくなる。ここでSSの業績が落ちれば、間違いなく私の責任だ。
常務だって、昼間はうまいこと言ってたけど、そうなればメチャクチャ言われるんだろうなー。前途多難…。
私はさっき来た生ビールをぐいっと飲んだ。
この、目の前の人さえいなければ、まだ先は明るいんだけどなー。
多分、お酒がだいぶまわってきて、だいぶ座った目で私は、商売敵を睨んでいたのだろう。
「どうしたんだ?おたくの主任は。今日はいつにも増して、迫力があるじゃないか。」
商売敵が嫌味たらしく、有馬に言う。
有馬も有馬で、余計なこと、言わなくてもいいのに、
「いやね、来月から所長になるんスけど、まだ納得してないようで。いいかげん、諦めればいいのにねぇ。」
なんて調子に乗って言いやがる。このやろう。
私はジョッキに残ったビールを一気に飲み干し、ダンッと机に置いた。
「すんません!生中一つ!」
「主任ー、もうやめといたほうがいいですよー、明日も仕事でしょー。」
有馬が言うが、そんなの知るかい!
「これだから、酔っ払いは手におえないんだ。」
あきれたような顔で、商売敵は言う。
「うるさい!あんたなんかに、何がわかるっていうのよ!」
自分でも半分、何に怒ってて、何を言ってるのか分からない。
分からないけど、無性に腹が立ってるのだ。
それからそうとう飲んで、そうとう商売敵に絡んだけど、何を言ってたのか、何をしてたのかは全然分からない。
途中から、商売敵は私をバカにするでもなく、黙って愚痴を聞いてくれてたような覚えがある。
が、しかし、店を出る頃の記憶は全く無かった。
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