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小さな願いが 仁王




中学を卒業してもうどれくらいたったのだろう
中学の思い出も曖昧にしか思い出せないくらい年をとってしまった

私の青春は一人の男に捧げてしまってあまり良いものではなかった気がする

いや、ただ私がずっと片想いをしていただけか

なんて久しぶりに訪れた母校の門を通りながら思った

学校は私が通っていた時と差ほど変わってなくてなんだかホッとした

そして懐かしさが込み上げてくる
先生たちに挨拶をして校舎を歩く


色んな所を見てまわる度に彼への想いも溢れてくる
中学を卒業して、私が別の高校に行くときに全部捨てたはずだったのに
何重にも鍵をかけたのに


馬鹿ね、私も


そんな自分に苦笑いしながら校舎を出た




パコーン パコーン



ふと、グラウンドの方から聞こえる聞き慣れた懐かしい音


休日とはいえ部活はいるだろうと思いながらも
その音のほうへ足が進む


足音を起てないようにそっと近づく
その音と一緒に現れたのは懐かしい人
さっきまで私の頭を独占してこの十年間私の心から出て行ってくれなかった人





「仁王…」




ふと声に出してしまった
仁王はその声に反応してこっちを向いた



「なまえ、か…?」



あの頃と変わらない後ろ姿
あの頃と変わらない唇の下にあるホクロ
あの頃と変わらないつり目
あの頃と変わらない低い声
あの頃と変わらない私が好きだった仁王のまま


堪らなく泣きたくなった


そんな私の姿をみて仁王は苦笑いをしながらこっちへ来る




「なんつー顔しとるんじゃ」



目を細めながら私の髪をわしゃわしゃと少し乱暴に撫でる




「なんで、いるの?」


「ん?なんか急に来たくなってのぅ」



「使命感ってやつ?」なんて笑いながら言う仁王に一発入れてやった


「ちょ、なにするんじゃ!」



笑いながら更に私の髪をグシャグシャにする

あぁ、本当に懐かしい



「にしてお前さんは何も変わっとらんのぅ」


髪が伸びたくらいじゃな。て言って乱れた髪を直してくれた



「…仁王は髪暗くなったね」


「流石にあのままじゃ就職出来んからのぅ」


「髪も切ったの?」


「おー似合うじゃろ?」




中学時代に私にだけ見せてくれていた笑顔で言う仁王に心臓がバクバクと聞こえるんじゃないかと思うほど鳴る



あぁもう、なんでコイツはこんなに格好良いんだ

人の気も知らないで仁王は簡単に私の中の鍵を開ける

どんどん溢れだす仁王への想い
そのまま溢れて無くなればいいのに
そうしたら楽になるのかな?

いや、そんなこと思っても無くならない
無くなったらきっと私は空っぽになってしまうんだ


そんなことを考えていると仁王がラケットなどを片付けながら言った


「のぅ、なまえ。これから暇か?」


「え、あ…うん」



突然のことにきょどりながら答えるのがやっとだった



「なら今日は俺に付き合いんしゃい」




「誰かさんが俺になんも言わんで行方知らずになったからのぅ詳しく話しんしゃい」そう冗談っぽく言いながら淋し気に笑う


そんな顔見せないで
期待をしてしまう



小さな願いが
(叶うのなら、もう一度だけ)
(貴方に恋してもいいですか?)


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