反則
※反則
「啓介さん、FDの鍵貸してください」
涼介、啓介との3人で話しているとケンタが慌ててこちらに向かって走って来た。
「なんで?」
「啓介さんのFDを移動してくれと史浩さんが言ってたので俺が変わりに動かそうと思って」
「面倒くせぇな…。分かった、俺が動かすからお前先に行ってろ」
じゃあお願いします、と再び走って行ってしまった後を啓介が追い掛けて行った。
「(…そう言えば啓介が他人にFDの鍵を貸してる所なんて見た事ないかも)」
レッドサンズのメンバーにさえ貸さない啓介になんでだろ?と考えてると不意に隣に立つ涼介に目が行く。
「(…涼介にだけは貸してるか)」
唯一絶対的に信頼している涼介にだけは愛車の鍵を貸している場面を何回か見掛けた事があるのを思い出した。
「ねぇ、涼介」
「どうした?」
「啓介ってさ他人に絶対にFDの鍵渡さないよね」
「そうだな…。でも自分の車を大切にしてる奴はそういうものじゃないのか?」
お前だってそうだろ?と聞かれうん、と納得した。
確かに大事な自分の愛車をそう易々と他人に運転はさせられないかも。
「じゃあ涼介も誰にも貸さない?」
「基本はな。まぁ相手の腕と親しい関係だったら別だが」
「それならあたしの腕じゃ貸して貰えないね」
「何故?お前にも渡すよ」
あはは、と冗談混じりに言うと涼介は特に動じる事なくさらっと鍵を貸す、と言ってのけた。
一瞬拍子抜けしてしまったが素直に嬉しい。
きっと締まりのない顔をしてるだろうなという時に、FDを動かし終えた啓介が戻って来た。
「2人でコソコソとなぁに話してんだ…ってお前何ニヤついてんだよ」
「ふふ、内緒」
「んだよそれ」
「ほんとすぐ怒るんだから啓介は」
拗ねる啓介に短気だなぁとつくづく思い今度は啓介に同じ質問をしてみた。
「啓介って涼介以外にFDのキーを貸さないよねって話し」
「そんなの当たりめぇだろ」
「当たり前なのか…」
「?」
怪訝な顔をする啓介にやっぱりそうなんだ、と1人うんうん言っていると、歯切れが悪そうに啓介が口を開いた。
「…でも、」
「?」
「アニキとお、お前にだけなら貸してやる」
「へ?」
目を逸らす啓介の耳が赤くなっているのを見て釣られてあたしまで赤くなってしまった。
「(…それって、)」
ケンタにでさえ貸さない鍵をあたしには貸してくれると言う啓介に何故かドキドキしてしまって。
涼介の時とはまた違う反応をしている自身に自分が一番戸惑っていることを隠す事などが出来る筈なかった。
Apr.4 反則
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