依頼,7
「「うめえ〜〜」」
「ふん 当然だバーカ」
「(うまい…)」
ピンクの生地に黒ぶちがしてあるエプロンをつけ、襟足をちょこんと結んでいる姿はかわいい以外ない。そしてハヤトの作る料理はなんでもうまい。自分の息子だったらめいっぱい親バカになってやるのに!反抗期なんだよな、そうなんだよなあ、ああ、成長を感じるよハヤト!それにちゃんと綱吉君の分も作ってるところがこう今人気のツンデレみたいな。最先端かコノヤロー!
「おいユキ、ニヤニヤこっち見んな」
「いやあーツンデレってかわいいよね」
「何の話だ!」
恥ずかしがんなって!うわ、ちょ、フォーク!フォークこっち向いてるっつーの!彼をおもいっきし抱きしめてやる。顔を赤くしながら振りきろうとしてるようにして振りきらない力加減がハヤトのかわいさだ。え?なに?親バカ?えーしらねーよそんなもーん。ばっちこいやー!「ハヤト!俺の嫁にならないか」「オマエまじ死ね!」ちえー、本気だったのに!「あーあ、オレ女だったらハヤトを婿にもらえるのに…」そうつぶやくと、隣にいて耳に入ってきたのであろうハヤトが、「ばっ…」そう言ったまま止まった。そして力が抜けたようにはあ、とため息を吐いた。あんだよコノヤロー。押しかけ女房にでもなってやろうか!
「ふたりとも」
「「?」」
「静かに食べようぜ、な☆」
「「はい」」
「(タケシ恐ろしい…!)」
それよりよお、とタケシの顔が元に戻る。(あ、それとベーコンほっぺについてるよ)
「あれどうなったんだ?ハヤトがつまずいたやつ」
「嫌な言い方すんな」
「ああ、あれ?まあ色々と」
「…色々、ですか」
そうそう、色々。そうはぐらかすと、新人で意味がわからない綱吉君以外はふぅんと軽く流す。いつものことだからだ。(まったく、ボスというのも大変だ)頭の上に疑問符を浮かべる綱吉君。きょとんとした顔はまさしくリスだ。ああかわいい。タケシは犬だし綱吉君はリスだしハヤトは……オオカミ?俺は…なんだろ?「あの、」銀髪だし天パだし「あ、あのー…」…ヒツジ?も、違うなあ…「ユキさん!」「ぅおえっ!」
「ななななななななんだいつなよしくん?」
「いろいろって、気になりますっ」
「え(すごくかわいい顔…!)」
「俺だけのけものって悲しいし…」
「あー…そだよねえ…ま、言っておこうか」
それから、お得意の無呼吸延々説明を披露した。
俺は手前味噌ながら、けっこう名の売れる刑事だった。出世のはなしもけっこう来てたんだが、俺はリーダーよりもエースタイプだと思ってたから、話を蹴ってはある同僚に半殺しにされた。まあそんなこんなで警察側には顔が売れ、それの貯金でコネやら恩やら色々な貸し借りがある。貸しで騒動をもみ消してもらったり、借りで面倒沙汰を片づけたり。ハヤトやタケシはそれになんの文句も言わずついて来てくれた(疑問持ってもいいんじゃねーか?)
「てなかんじ?」
「は、はあ(3分の1しか聞きとれなかった…)」
「ハヤトー、おれおかわりー」
「あ、俺水ー」
「俺は家政婦じゃねえっ!」
(といいつつ皿に盛る)
「(こういうキャラか…)」
綱吉君はうんうんと頷くと、「ハヤト、俺もおかわり」そういって皿を差し出した。(ここの関係を理解し始めたようだ)
翌日、俺は測られてもないのにサイズがぴったりのツナギをもらった。まあこういうもんなのだろうか。胸には『何でも屋:ボンゴレ』と刺繍してある。デザインは誰が考えたのか知らないけど、結構かっこいい。なんだか3人の仲間入りをしたようで、嬉しかったから、渡されてずーっと着てたらハヤトに笑われた。ムカついたからシャワー浴びてる隙にバスタオルを足ふきマットにしてやった。
(今頃知ったけど、あそこはなかなか充実している。お風呂もキッチンもあって、普通のマンションっぽい。)
「おーいツナー」
「あ、うん?」
「これ。たまったからさ、トラックんとこ持ってってくんね?」
「了解」
「サンキュ」
額の汗を腕で拭きながら、にか、と爽やかな笑顔を残してまた作業に戻るタケシ。汗だくで爽やかってすげえ…。(同い年だよな)そして、ずっしりと草が大量に入った袋を片手に2コづつ持って歩く。
今俺は、初めての本格的な依頼をこなし中。介護施設の裏庭の、夏にたまった草むしり。ちょっと地味だなー、と思っていると、それを見透かしたのかユキさんは、
「まずは基本からこなさないとね!」
と、恐らく笑顔で言ったんだろうけど、書類の山で見えなかった。
まずはタケシと2人で、ということになった。ハヤトは仕事が無いのか、ずっと戦国バサラをやってた。(ニートだ、ニート)
「よっと」
トラックの金属の板に、どすん、と重量感のある音が響く。「ふー」先程のタケシを真似して、腕で汗をふく。それにしてもタケシ、草むしりスピードがハンパない。草むしり検定とかあったりして。ぶ、と1人で笑っていると、後ろでドサ、と音がした。
後ろを振り返ると、タケシがうつ伏せに倒れてる。ってえ!?
「た、たけっ、大丈夫!?」
「……ら、……た……」
「え、な、何!?」
「はら……へ、った……」
そんだけかよ!とツッコみたかったけど、うんうん唸っているから、「じゃあ、一旦休もうか」と声をかけた。ぱあ、と顔が輝いて、「うん!」と言ったタケシを見て、あ、餌付けできるな、と思った。
「くっはあー!うめえー!」
「俺のお気に入りなんだ、ここ」
「そっかあそっかあ、こんなとこ、あったのなー」
もっしゃもっしゃと目の前にある料理をたいらげていく。もしかして、タケシは満腹キャラなのか?一応ここはバイキングだから、いくら食べても平気だと思うけど…。
俺がアイスをちびちび食べながらじっと見ていると、タケシは食べる手を止めて、頭にハテナをくっつける。
「どーかしたか?あ、これ食うか?」
「え、いや、いいよ。ああ、ほら、ポテトサラダ。新しく入ったみたいだよ」
「おっし!いってくる!」
いってらっしゃい、と手を振ると、さっきまで倒れてたのはどちら様、ウサイン・ボルトも真っ青のスタートダッシュでポテトサラダの大皿をそのまま持ってきた。
「そ、それは怒られるんじゃ…」
「ははっ!店員のねーちゃんがくれた!」
「…そのひと、歳、どんくらいだった?」
「ん?うーん…30前後、ってとこか?」
それがどうしたんだ?と小首を傾げるタケシ。ポテトサラダはもうすでに3分の1ほどになっている。きっとポテトサラダをねだった時の顔が、弟にでも見えたのか、年下のイケメンに見えたのか。あー、あー、女ってやだ。
綺麗なくらいハイスピードでたいらげていくタケシは、スプーンをくわえて、ぴたりと止まった。
「……どうしたの?」
「ツナ。このごろ思ったんだけどさ…」
「?」
「ハヤトの様子がおかしい気がする」
スプーンをくわえたまま、真剣な顔になる。俺は、どう反応したらいいのか分からないから、じっと黙りこんだ。それをタケシは、困らせていると思ったのか、「わり、忘れてくれ」「にしてもこのポテトサラダうめーな」そう言って、にかりと笑った。
そしていつ持ってきたのか、バカデカいハンバーグを切りながら、しみじみと言った様子で語り始める。
「俺はさ、ツナの前に来たから、あの2人に途中から加わった感じなんだ」
「へえ…じゃ、俺が来るまでは、タケシが新人だったの?」
「うん、ま、あそこは先輩後輩ねーから、関係なかったけど」
「はは、そうだね。いきなり『さんはつけるな!』だからね」
「あー、俺ん時もそうだった!ずっと野球やってたからさ、上下関係とか、無意識に染みついちまったんだよなあ」
ははは、と笑う顔にソースがついていたので、ナプキンで取ってあげる。最初は何だ?って顔をしていたタケシも、取ったソースを見せると、「さんきゅー」と少し照れ気味に笑う。ああ、弟みたいで可愛い。
「最初、俺さ…追われてて、追い込まれたところにあったのがあのユーレイビルでさ」
「(追わ…?)ユーレイ…幽霊?」
「ん。ホントは、夕方の夕に礼儀の礼で、夕礼ビルなんだけどさ。あそこ、ユーレイでそうだろ?」
「確かに、入る時すごい怖かった…」
「そうそう。入る時ビクったけど、追われてたしな」
「(…)ていうか、何に追われてたの?」
「ん?ギャング!」
「ブフウッ!」
「嘘!嘘だって、ツナ!」爆笑しながら机をばんばん叩くタケシをちょっと睨む。噴き出してしまったコーヒーゼリーを拭くと、「で!」気を取り直して。変にまぎらわすから余計に気になるんだよ、この天然!
「本当は!?借金取りとか?」
「うお、そんな怖くねーって。通り魔だよ」
「ああ、通り…ええ!?も、もう一回」
「通り魔。」
「そ、それは後ろからグサっとくる感じの?」
「後ろからじゃなくて、上から振りかぶってきた、かな」
「上え!?」
んー。なんか、ドラクエとかに出てくるさ、あの剣あるだろ?あんな感じの。
「な、なにそれ!タケシなんかしたの!?」
「ま、まーツナ落ち着け。座ろうぜ、な?」
あ、俺立ってたんだ!は、恥ずかしい…。
そろそろと座ると、タケシはたいして悪びれた顔もせず、続ける。(色々ついていけないんだけど!)
「そんで、たまたまバット持ってたから応戦したんだよ。そしたら、金属バットが一発でオシャカになっちまった!はははは!」
「そこ笑えないんだけどおおおお!きっ…え!?」
「粉々になった鉄クズ見てさ、あー、これヤベえ、ってなって、逃げた」
「それは普通逃げるよ…!」
「ま、そーだよなー。そんでー……
メンドいから、VTRでどうぞ」
「ごめん待ってついていけない(主に頭が)」
(あ、ほんとに入るんだコレ…)
「はっ、つ、づがれだっ…!」
俺、こんな体力なかったっけ!
ばっと後ろを振り返ると、銀色に光る刃物、すげえ速度で走ってくる黒いフード被った(恐らく)男!
間違いねえ、まだついて来てる!
「もう、はっ、ホント、何なんだ!?」
人におっかけられて殺される覚えは…………少しはあるけど、え!?ちょっ俺っ結構足早い方なのに…!
「あ、あのおっ!」
「……」
「おれっなん、かっしましたかあ!?」
「……」
「……」
「……」
「……無視かアアアア!」
半分ヤケになって叫ぶと、ぜえ、はあ、と息が切れた。俺、毎朝一応ちょろっと15キロ走ってんだけどなあ…。やっぱ8割じゃなくて、全力で走りぬいたほうがいのか…な?
裏通りの道を選んだせいで、どこか入り込もうと思っても狭い道路だけ。あ、もう、無理…。
「は、はっ…………あああ!!」
ビルの入り口発見!しかたねえ、ここに入るか…!階段登るのは慣れてるし!
かんかんかんかん
うわ、気付いたけど、ここ結構暗いし!狭いし!怪しい看板ばっか目に入ってくんだけどこれ、
だんだんだんだん
「!?(早っ…!?)」
…って、もう最上階!?ここ入るしかねーじゃねーか…!
ドアを思いっきり引っ張り(開いてる!ラッキー!)、「すいません!!!電話かります!!!」靴のままのし上がって、電話を探そうとばっと顔を挙げると、まあまあよくこんなにも溜めれるものだ、と思うほど、書類らしき紙の山。
こ、こんなんじゃぜってー見つかんねー…!
「あー、電話線切れてるからー、それ」
使えないよ。
のんびりした声に振りかえると、ピンクの生地に黒いふちがついているエプロンをした、キラキラ光る銀髪の兄ちゃんが立っていた。両手におたまと菜箸を持って。
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