[携帯モード] [URL送信]

乙女、青春を腐心せよ(腐女子連載 長編)
1
…ターゲットNo.1 氷帝学園、目標捕らえました

そう脳内で言いながら私は転校先である氷帝学園の門をくぐった。


〜乙女、青春を腐心せよ〜


事の発端は一月前。中学2年生の夏休みの始まり、終業式の日の夜。話があると母に言われてリビングに行ってみると両親と姉が真面目な顔をして座っていた。何事かと席について父の顔をじっと見つめる。

「名前ちゃん、お姉ちゃんよく聞いてくれ。実はな、パパ4月から仕事でアメリカに行くことにしたんだ。」

父の衝撃発言にポカンとする。
父の仕事は室町の頃から続く老舗扇子屋の社長。実家は京都にあり、そちらの方は祖父が管理している。そういえば少し前に海外進出の話をしていたような気が…

「それでな、パパはママと離れたくないからママにはこっちに来てもらおうと思ってるんだ。でもお姉ちゃんは今年大学生になったばかりだろう?あんなに受験勉強したんだから今更変えるなんて言うのもどうかと思ってな。だから…」

なんだろう、嫌な予感がする…

「名前ちゃんとお姉ちゃんには2人で暮らしてもらおうと思いまーす!」

「「はあぁぁぁぁ!?!?」」

お姉ちゃんと2人で叫ぶ。
いやいやいや、何考えているんだうちの親は?急に二人暮しをしろと言われてもなんの準備も出来ていない。っていうか、パパとママが離れたくないっていう理由で娘達に苦行を強いるのは如何なものか!?

「大丈夫よ〜2人とも!この家じゃ流石に管理が大変だろうと思って2人で暮らすのに丁度いいマンションを用意したから。」

大丈夫よ〜、じゃない。
全然大丈夫ではないのだぞ、ママ。
大体私達に何も言わずに私達のマンションを買うって…。
まぁどうせその場のノリでポンッと買ってしまったのだろうが。

「あ、それから名前ちゃんは悪いけど転校してもらうわ。お姉ちゃんの大学の中等部よ。そこに通うのに1番便利なマンションにしたのよ。」

「うん。流石に娘二人暮しだからね。セキュリティー万全のそこなら心配ないよ。」

うふふと笑い合う両親に心配云々ならもっと真面目に考えろよと思わないでもなかったが、溜息を吐いただけで留まらせた。

「あ、引越しは三日後よ〜」

…最早何も言うまい。
何年両親の突然の思いつきをくらい続けてると思っているんだ。このくらい慣れた。
この際私の転向も致し方ない。一応心配してセキュリティーのいいところにしてくれた親の気持ちは受け取らなくては。
溜息を一つ吐き、お姉ちゃんと目を合わせて立ち上がる。

ばたばたと引っ越して数日後、両親はアメリカへ発った。
そして明日は始業式。早く寝た方がいいのだが、しばらく満足にゲームが出来なかった不満が溜まっている。
久しぶりにいつものオンラインゲームを開く。ガチユーザーの私はもう3年ほどこのゲームを続けており、装備もキャラメイクも完璧である。私の使っている子は私と同じ薄い金髪の女の子だ。
うん。ふわりと回りつつ雑魚を一掃する姿は見事である。
可愛いぞー、なんて声をかけていたらよく一緒に狩りに行く仲間のログインを伝える通知が来た。何人か仲間がいるがこの人とのタッグが一番やりやすい。[zenzai]さんという彼は年齢は一つ下の男の子らしいのだが、年齢層の高めのこのゲームでは珍しく、ついついよく絡んでしまう。まあ嫌だったらフレンド解除してくるはずなのでそれがないということはあちらも憎からず思ってくれているのだろう。
そういえば今のイベは限定レア武器の落ちる協力バトル物だったはずだ。彼の様子からしてまだ誰とも組んでいなさそうだ。

主人公のゲームアカウント名「こんにちはー。お久しぶりでございます。
zenzaiさんって今のイベやってます?もしよかったら組みませんか?」

zenzai「おお、主人公のゲームアカウント名さんやないですか。どこ行っとったんすか。
今イベはまだ誰とも組んでないんでよろしくお願いしますわ。」

ピコンッと画面にメッセージがあがる。
ラッキーと思いつつイベ用のお城の中にzenzaiさんと入っていく。
カチカチと弄りながらzenzaiさんと会話をする。

zenzai「そういや、なんで来れなかったんすか?」

主人公のゲームアカウント名「いやー、引越し作業が案外大変でしてね。親が突然アメリカ行くとかいうもので」

zenzai「ほー。大変っすね。うちの部活の先輩も変人ばっかだけどアメリカ行く人はまだいませんわ。」

主人公のゲームアカウント名「もう慣れましたよ。zenzaiさん部活やってるんですね。私帰宅部なんで青春って感じがしていいですね。先輩とか!響きがいい!」

zenzai「先輩とかウザイだけっすわ。あ、ボス戦終わりましたね。」

そうこうしているうちにボス戦が終わった。

主人公のゲームアカウント名「お疲れ様です。時間も遅いんでそろそろ落ちましょうか。」

zenzai「そっすね。主人公のゲームアカウント名さん明日も来ます?したらまた組んでほしいっすわ。」

主人公のゲームアカウント名「喜んで!じゃあ今日と同じ時間に広場の噴水のところで。何かあればLINEの方でお願いします。」

zenzai「了解。おやすみなさい。」

主人公のゲームアカウント名「おやすみなさい。」

明日も2人で組む約束をしてゲームを切る。zenzaiさんとは出会ってしばらくしてLINEを交換した。時折写真なんかを送り合う仲だ。

ちらりと時計を見ると2時を過ぎていて、急いで布団に潜る。
転校に特にドキドキする訳では無いが、友達が出来るといいくらいに思って瞳を閉じた。

そして朝。特に遅刻をする訳でもなく普通に家を出た。イヤホンで最近ハマっているアニメのキャラソンを聞きながら歩く。
最寄り駅から2駅程のところで降りると同じ制服の人が増えてくる。
前にいたところが女子校だった為に男子がいることに違和感がある。が、これから過ごしていくのに、そんなことを気にしていては負けである。
スタスタと歩いていくと異様に豪華な建物が見えた。
…学校か?コレ。
なんだかラスボスのような雰囲気の学校に足が進まなくなる。
とりあえず行かなければと脳内でボスに立ち向かうスナイパーの絵を思い浮かべる。

…ターゲットNo.1 氷帝学園、目標捕らえました

そう脳内で言いながら私は転校先である氷帝学園の門をくぐった。

第一関門突破である。
ふぅと息を吐いて職員室を探す。
適当にその辺にいた女の子を捕まえて聞いていると近くでキャァァと黄色い歓声があがった。それを聞いた女子生徒は私のことをほっぽって行ってしまった。

えぇー…。放置プレイですか…。

とりあえず本館の1階という所までは聞いたので、そこら辺を探せば見つかるだろう。

さっきのは一体なんだったのだろうか。歓声がほぼ女子の声ということはアイドルでも来たのか?私でも分かる人だろうか?
なんて考えていたら職員に着いた。ここで何かあれば乙女ゲーなのだが、残念ながらここは現実だ。何事も無く先生に挨拶をして現在教室の前。
私のクラスは2-Bである。いいよね2-B、凛月くんと同じだね!やばい今のイベあんまやってない。確か流星隊だっけ?帰ったら走んないと…。
などと考えているうちに先生に呼ばれる。

一般的な挨拶をして先生に言われた通りの席に座る。窓側の一番後ろ。
おお!主人公席!やっぱり転校生はここだよね!
うんうんと満足げに頷いて前を向く。この後は始業式らしく、先生の話は割と早めに切りあがった。
皆が講堂に行くのに適当に着いていく。

始業式の間は次の即売会に出す新刊の内容と次のゲームのイベントスケジュールについて考えていたので何も聞いていなかった。

学校は午前で終わり、さて帰ろうとしたところで隣の席の人に挨拶していなかったことを思い出す。遅くなってしまったがしないよりはいいだろう。支度をしている隣の人に向き直って声をかける。

「あの、すいません。遅くなってしまったのですが転校してきた苗字です。よろしくお願いします。」

「あーん?」

そう言ってこちらをじろりと見る。
なんだあーん?って。なんか変な事言ったか私。それとも挨拶が遅れたこと怒ってるのか?

「あの…」

「ふんっ、転校生か。悪いが、俺様に取り入ろうったってそうはいかねーぜ?雌猫は大人しくしてな。」

…おおう。なんて強烈な隣人なんだ。
厨二病をすらせてしまったのだろうか。

「いや、別にあなたに取り入ろうとかしてないんで大丈夫です。はい。とりあえず挨拶はしましたからね。ではさようなら。」

ここで勘違いされてしまうとこの恥ずかしい人の雌猫(笑)だと思われてしまう。はっきり、きっぱり断わってさっさと教室を出た。

帰ったら新刊の下書きしないと…。あ、夕食何がいいかお姉ちゃんに聞かないと…。

姉に電話をかけながら帰路についた。

…そしてそんな私をじっと隣人が見ていたことになど、その時の私には知る由もなかった。

[次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!