藤色の銀細工(テニスの王子様×戦国BASARA 長編) 8 時は流れ現在6歳。ちょうど4日前幼稚園を卒園した私は今イギリスにいる。 きっかけは母の一言だった。 「イギリスねぇ、行ってみたいわ〜」 その言葉を聞いた途端、父の目が輝いたように見えた。そして2日後にはイギリス旅行が決まっていた。行動力の凄まじい両親である。 私は南蛮に言ったことなどない。私の中の南蛮のイメージはザビーか独眼竜と言ったところだ。豊臣の中でも私は南蛮外交担当ではなかったのでそんなに馴染みがないのだ。 というわけで私はこの旅行をかなり楽しみにしていた。旅行が決まった翌日には本屋でガイドブックを購入した。英語というらしい南蛮語もいくつか覚えた。(その際初めてLet's Partyの意味を知った) さて、張り切ってまず観光した先はブレナム宮殿と言うというところである。重厚な建物は壮観であり、日ノ本の城とはまた違った良さがある。 そして私は今、その宮殿の庭で一人きりである。 …迷子というやつだ。 きょろきょろとよそ見をしていた自分が悪いのだが、如何せん心細い。とりあえず入口に戻ろうと来たであろう道を戻る。…のだが中々たどり着かない。人に尋ねようにも今のところ誰も見当たらない。 “ Hey!(おい!)” 困り果てて天を仰いだその時、後から声がかけられた。 “What are you doing here.?You should not go out of here.(ここで何してるんだ?ここは立ち入り禁止のはずだ。) ” おおう、英語…。 振り向くとそこには私と同じくらいの男の子が立っていた。表情からしてあまりいいことを言われているようではない。 慌てて鞄から本を取り出して[困った時の英語フレーズ]のページを開く。 “I'm lost.(迷子)” よし、これでいいはずだ。 とりあえず返事ができたことに安心していると男の子は本に目をやった。 「アーン?もしかしてお前日本人か?」 「む?其方は日本語が話せるのか?」 「ってゆーか俺様も日本人だ。」 日本人だったのか。顔立ちや瞳の色からして外国人かと思った。しかしそれならば好都合だ。早く入り口に行かなければ。 「そうであったか。失礼した。 ところで入り口はどちらだろうか?先程言った通り迷ってしまってな。入り口にいれば両親と合流できるかと思ったのだが。」 「ああ、そういえばそうだったな。 …ふむ。よしいいぜ!俺様が連れて行ってやるよ。」 「真か!忝ない!」 連れて行ってもらえるなら更に好都合だ。この複雑な作りの宮殿では道を1度聞いたところでたどり着かないだろう。 「よし、ほら行くぞ。」 そう言って私の手を取って歩き出した。 入り口に着くまで彼と話していて分かったことがある。 彼は今日この宮殿の持ち主に招待されてきているらしい。親御さん達は仕事の話をはじめてしまい退屈だった為抜け出してきたのだとか。 そしてもうひとつ、彼は物言いや態度は尊大だが優しい性格らしい。迷った私を案内してくれている時点でそうなのだが、彼のする話の端々に優しさが滲み出ている。 「お前のその瞳の色…」 「む?ああ、変か?」 「いや、そうじゃない。綺麗だ。薄い紫色か?」 「ああ、藤色という色だ。其方こ薄く氷の張った水面のような色だな。綺麗だ。」 「っあ、ああ。アイスブルーだ。そんな風に言われたのは初めてだ。」 そう言うと彼は口元を手で覆ってそっぽを向いてしまった。しかしこちらから伺える耳が赤いのを見ると照れているだけなのだろう。 そうこうするうちに入り口が見えてきた。入り口の横には両親らしき姿が見える。ここまでくれば大丈夫だ。くるりと彼の方を向いてそのことを伝えると複雑そうな顔で見つめてきた。 「ここまでくれば大丈夫だ。横に両親の姿も見える。世話になった。感謝する。」 「…なあ」 「うん?」 「また逢えるか?」 「私がイギリスにいるのはあと3日だ。それ迄に再び会うのは難しいだろうな。」 「…。」 「しかし私はまた逢いたいと思った。願っていれば叶うことだろう。」 「そういうもんか?」 「ああ。そういうものだ。」 彼はこちらをじっと見つめたあと、急に顔をこちらに近づけてきたかと思うと頬に唇を寄せてきた。私が呆然としていると自信満々といった顔でニッと笑って駆け出した。 「いつか俺様が直々に迎えに行ってやる!またな!」 そう言って宮殿にかけていく彼の後ろ姿をぼーっと見つめていると、私に気がついた両親が駆け寄ってきた。 慌てて謝ると頭を撫でられてから手をつないで外に出た。 3日して飛行機に乗って日本に帰る。幸村一家には紅茶とクッキーを買い、精市には刺繍のはいったお揃いのハンカチを買った。 飛行機に乗ってイギリスを発つ。 窓の外を眺めると彼の瞳と同じアイスブルーが広がっていた。 …あ。彼の名を聞いて [*前へ][次へ#] |