藤色の銀細工(テニスの王子様×戦国BASARA 長編)
5
今日はまた精市とテニスコートに来た。精市は毎日のように来ているようだが私がここに来るのは丁度十日ぶりである。
精市がテニスを初めてしばらくして私も琴を習い事を始めた。前世からやっていたので習わなくても出来るのだが、家に琴が欲しかったのと突然普通に引き出したらおかしいだろうと思っては始めたのだ。本当は剣道等の武術でもいいかと思ったのだが如何せん私のは実践用であるし、普通の戦い方と若干違う。その為諦めたのだが、幸運なことに父の木刀があったのでそちらの方で我流に鍛錬することにする。まあもし機会があれば見学したいものだが。
私の通う琴教室は精市のテニスコートから歩いて5分ほどのところにあるため、どちらか都合のいい方の親が2人を迎えに来てくれる。最初は会える時間が少ないと気落ちしていた精市だが、帰り道で会話できると分かると機嫌も治った。
さて、それで今日は教室も休みのため来たのだが先程精市は先生に呼ばれて行ってしまったため実に暇である。
ぼうっと飛び交うボールを眺めていた時、向こう側が少し騒がしくなった。意識をそちらに向けると私と同じくらいの男の子が小学校高学年くらいの男の子3人に囲まれている。男の子は負けじと怒鳴り返しているようだが体格と年齢の差からか全く効いていないようだ。何か腹の立つことでも言われたのだろうか、小学生の方が男の子を殴ろうと手を挙げたのが見えた。
その瞬間私はそこに駆け寄り相手の腕を捻りあげ足を掛けた。両者呆然としているようだが先に我に返った小学生の方が喚き出す。
「なっなんだお前ぇ!何すんだ!!!」
「おい!お前の殴られてぇのかぁ!?」
「何を言っている。先に手を出したのはそちらのようであったが?私は乱暴者に傷つけられそうになった少年を助けただけだ。」
「あ゛ぁ!?チビのガキじゃねぇか!しかも女だぜ?」
「ってんめぇ、ブン殴ってやる!!!」
図星を突かれて逆上したのであろう相手が殴りかかってくるが私は元武将だ。小学生の相手なんて赤子の手をひねるより容易い。
すっとけがを負わせないように的確に急所をつく。痺れて立てなくなった餓鬼共は怖かったのか涙目でこちらを見上げてくる。
騒ぎを聞きつけた先生が急いでやって来た。この状況に驚いたようだが、とりあえずと小学生と男の子と一緒に連れていかれた。幸い周りに人が多かったため彼らが悪いとの証言が多数あり、私と怪我の治療を受けた彼はすぐに解放された。ふと隣から視線を感じて見てみると彼がこちらをじっと見ていた。目が合うとたじろいでから口を開いた。
「…っ!あ、そ、その…、助けてくれて感謝する。俺は真田弦一郎という。名を聞いてもいいか?」
「ああ、私は苗字名前だ。礼には及ばない。当然のことをした迄だからな。しかし何があったのか聞いてもいいか?」
「ああ。あ奴等はテニスの試合で俺に負けたのだ。それで恨まれてな。年下のものに負けたのがよほど悔しかったようだが、それならば鍛錬を積みテニスで勝てばいいと言ったら腹を立てたようだ。」
「なるほど。」
「いや、しかし女子だというのにあの身のこなしは凄いな!俺も祖父と剣道をするが先程はどうにもできなかった。情けないことだ。」
ほう、彼も武人であったか。話し方といい似ているところがあるかもしれない。
「そんなことは無い。年上の相手に言い返したのだろう。立派だと思うぞ。それにテニスで勝ったということはテニス強いのだろう?機会があれば見てみたいものだ。」
そう言うと彼は真っ赤になってしまった。
「っ、あ、いや、そ…「名前っ!」っ!」
呼ばれて振り向くと精市がこちらに走ってきた。
「む、すまない精市。色々あってな、先程まで医務室にいたのだ。」
「さっき先生に聞いたよ。まったく、怪我したらどうするんだい?心配したよ。とにかく無事でよかった…ん?真田?どうして名前と一緒にいるんだい?」
心配してくれたのか。それが嬉しくて微笑んだら精市もこちらに笑みを返してくれた。その時にちょうど彼に気がついたようだ。名前を知っているということは知り合いだったのだろうか。
「む、幸村か。いや、今回の事は此方が原因でな…。」
そう言ってことの経緯を話してくれた。
「…なるほどね。本当に弱いだけの馬鹿は困るね。俺も最近勝った中学生にこの間睨まれてね。これでもし名前に何かあったらどうしてくれたんだろうね?」
精市は笑顔でそう言っていたが目が据わっている。…ん?精市はこんなに黒い子だっただろうか?真田くんにもそれがわかったようで顔を青くしていた。ぱっとこちらに向き直ると精市はいつもの顔に戻っていた。
「…まぁいいか。さあ、名前もう時間だ。帰ろう。今日は俺の家でご飯だよ。真田もお大事に。また明日。」
「ああ、そうだったな。すぐに用意しよう。…あ、そうだ。弦!」
「…!?げ、弦とは俺のことか?」
「ああ、仲の良いものは下の名で呼び合うそうだ。私はもっと仲良くなりたいと思ったので呼んでみたのだが…。もちろん私のことも名前で呼んでもらって構わないが…駄目だろうか?」
「そっ、そういうことなら仕方あるまい…。名前!」
「うむ。弦!また!」
「ああ、またな。」
そう手を振って弦と別れた。
帰りの間ずっと精市は不機嫌だった。
手をいつもより強く握っているため私と離れたい訳では無いようだがしゃべらずにずっとそっぽを向いている。
「ねぇ、名前。」
「なんだ?」
「…。」
なんだ、なんなんだ一体。
「…真田のことが好きなの?」
?
質問の意図がいまいち掴めない。
「だって真田のこと弦って読んでたじゃない。俺だけが特別だと思ってたのに…。」
…なるほど。つまり精市は嫉妬して拗ねていたということか。そう考えると彼がとても可愛くなってくる。
「弦とは今日会ったばかりだが私は仲良くなりたいと思った。きっと弦ことを好きになるのはすぐだろう。でも精市、精市は私の一番初めの友だ。私にとってちょっと特別だぞ。」
「…俺、名前の特別?」
「ああ、特別だ。」
そう言うと彼はえへへっと笑ってさっきとは打って変わって機嫌よく笑って飴を舐めだした。私にもひとつ渡してきたので包を開けて口に含む。
…あ、いちご味。
私の一番好きな味だ。
「名前この間飴はいちご味が好きだって言ってたよね?俺は名前の特別だからね。ちゃんと覚えてるんだよ!」
そうしてぎゅっと手の力を強める精市を横目に空を見上げる。
空では月が私に微笑んでいた。
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