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過去拍手お礼文
不良×虐められっ子

「なぁ、水瀬(みなせ)。今日の掃除代わりにやってくんね?」


「えっ……、僕、今日…」


「やってくれるよな?今度水瀬の時、代わるからさー」




指定の制服をダラッと着崩した少年が、頭一つ分程下の小柄な少年の肩を掴む。



「………わ、分かった。」


「さんきゅっ!水瀬!」



着崩した制服の少年は、携帯電話で誰かに電話をかけながら教室を出て行った。





「…………っはぁ、」



一人教室に残された小柄な少年は、とぼとぼと掃除道具がしまわれているロッカーへと歩いていく。





小柄な少年、水瀬小夏(みなせこなつ)は、このような面倒な役を押し付けられる事が度々ある。


物心が付いた頃には、そんな損な役割を押し付けられる日々が日常となっていた。




「…なんでまた、分かったなんて言っちゃったんだろう…。僕の当番の時に代わってくれた事なんて、一度も無いのに…」


容姿が小柄で弱々しいせいもあり、小夏を良いように使うクラスメイトはいても、その反対はいなかった。


「こんな事、したくないのに…。」





ガラッ、



不満を呟いていると、不意に教室の扉が開いた。







「水瀬お前、また掃除してんの?」



綺麗に染めた金色の髪に、その髪が揺れる度に隙間から覗く幾つものピアス。

つり目がかった瞳と筋が通った高い鼻は、普通の人ならば"綺麗"と称される造りであるが、その顔にかかった金髪と顔の傷がそれを拒否する。







「……佐伯(さえき)くん、」



箒を動かしていた手を止め、小夏は開いた扉を見つめる。




「よっぽど掃除が好きなんだな、お前。」


「…………。」




小夏の肩が微かに震える。



「なぁ、なんでそんな震えてんの?」


「………ッ、」


「……あー、うぜっ。」





ガンッ!




「……――ッ!?」




金髪、佐伯氷里(さえきひょうり)が近くにあった机を蹴った。




「なんで毎回怯えんだよ。まじ目障り。」


「―…ご、めっ…」


「そういうとこがうざいっつってんだよ!」





ガンッ、ガンッ!



「……ッ、!」



氷里がまた机を蹴り、その度に小夏の肩は大きく揺れる。





「………止めた。つまんねえ」



そう言い残し、氷里が教室を後にすると、小夏は床に崩れ落ちる様に座りこんだ。




「………ッ、ぅ…」


白い頬には涙が伝い、体はガタガタと震え止まらない。




***



小夏の最近の悩みは、最近やたらと絡んでくる不良、氷里の存在だったりする。


高校に入って2年、その間偶然にもずっと氷里と同じクラスだった。


最初は今までの経験上、また自分をいいように使う同級生が増えるのかとばかり思っていたが、氷里は意外にも自分に仕事を押し付けたりするという事はしてこなかった。


ただ、やたらと自分に絡むのだ。


"絡む"という言い方はあっているのか分からないが、無理矢理押し付けられた掃除をしていると、決まってその場所に現れて一言、二言何かを言い捨てる。

その内容はバラバラで、今日の様に自分を罵倒するものもあれば、よく理解できないようなものもある。


1番驚いたのが、先日の教室での「お前って綺麗な顔してんだな。」という発言である。


そう言われた時はさすがに驚いて、「え?」と目を丸くした。

前々から不思議な事を言うなあ、とは思っていたのだが、どこからどう見ても並な自分の顔を綺麗と言われ、しかもそんな事を言われたのが初めてだとしたら当然の反応である。





「……僕、嫌われてるのかな、」




―ズキンッ…




そして、そう考えるといつも決まって胸が痛むのだ。


こんな感情は初めてで、いったいどんな名前をつけていいのか分からないのだ。



「…息が苦しい…不安が増す…のに、すごく会いたい…」








「誰に?」


「―…ッ!!」




―グイッ




「…いた、ッ…」


「しぃー、静かにしてね〜」


箒をロッカーにしまおうとしていた小夏の腕を茶髪の男2人が掴む。



「水瀬ー、今日もお掃除ご苦労さん。」


「…離し、て…」


「あっれー?この前俺達には敬語使えって教えたよなー?」


「…―…ッ、離して、くださ…ぃ…、」



涙を目に浮かべ、弱い力で抵抗する小夏を茶髪は笑う。



「あは、まじ可愛いじゃん!」


「だろー?」



1人の茶髪が手を小夏の腕から頬へと移動させる。




「前から思ってたんだよね〜」


にやにやと笑みを浮かべて、小夏の顔へ自分の顔を近付ける。




「水瀬、いつものお礼に良いことしてあげる。」


「……ゃ、だ…ッ」



何をされるのか全くわからない恐怖に、ついに小夏の瞳から涙が溢れ出す。






「た……す、けて、」









…―ドゴッ!




「……は?―……ッぅわ!」




…―ボコッ!








「………え?」



「水瀬、」




小夏の横にいた茶髪2人は、次々と床へ倒れていく。

束縛が無くなった小夏が顔をあげると、涙で歪んだ目にも分かる、見慣れた金髪が写った。






「…佐、伯く…ん、」



「水瀬、」





その顔はいつも通りの不機嫌顔だったが、小夏にはそこに少し焦りが見えた気がした。




「歩けるか?」



大丈夫?なんて言葉ではなく、1番に大事と判断した事を聞いてくる。


そんな彼が、いつもは悩みの種でしかなかったはずの彼が、何故か今は凄く安心できる存在に思えた。





「……さ…えき、く…ッ」



震える足で前へと進み、自分より背の高い彼へ抱き着いた。




「…水瀬、ごめん。」





何を謝っているか理解できなかったが、小夏は頷いた。



「さっき、俺が時間とらなかったらもっと早く帰ってただろ…?」




安心させるように、けれど壊れ物に触れる様な優しさで頭を大きな手が撫でてくれる。




「…もう少し、こうしてて…」



「……りょーかい、」




学校で初めての小夏の我が儘は、温かい温もりと一緒に、大きな手が受け入れてくれた。






2人が結ばれるのは、もう少し先の話。




*end*



-------------

あとがき



拍手ありがとうございましたっ(゚ω゚))))ペコッ


不良くんと虐められっ子くんの温かい話にしようとしたら、暗い話になってしまった件←

もっと私成長してきます←



蜜玲




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あきゅろす。
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