お前に溺れた俺の蜜
蛍
俺の故郷は、ずっとずっと遠くの、海を越えた所にある小さな島だ。
幼い頃、海で囲まれたこの島の海を、胡蝶と一緒に見るのが唯一の楽しみだった。
俺達より何倍も広大な海を、何時間でも見ていたっけ…。
夕刻に染まる、蒼い海。
冬の海でも、夕陽が照って真紅の色になる。空には、紅い月。
みんな不吉がってこの月を嫌ったが、俺はこの月が好きだった。
闇にのまれる、深い海。
夏色の海は、小さな灯火が俺達の道を照らしてくれた。
黄金に輝く蛍が、沢山いたから。俺はこの蛍が好きだった。
二人が、何も隠さず、信じあえる場所だから。
自分に素直になれる場所だから。
胡蝶は俺に隠し事はしなかった。
とても素直な女だった。
ただ、悲しい女でもあった。
「生まれてこなきゃ良かった……」
胡蝶はいつもそう言っていた。
俺達の故郷は昔から、都の罪人が島流しとして流れ着く場所だった。
無事島に流れ着く者もいれば、無残な姿で流れ着く者もいた。
多くの流れ着いた罪人が、この島で暮らした。
だからこの島のほとんどが、罪人の子供達。
生まれながらに罪を持って生まれた子供達。
胡蝶もその一人だった。
もしかしたら、俺もそうなのかもしれない。
生まれたときから、罪深き俺達には、計り知れない恐怖と憎悪が
この海と一緒に、
ユラユラ…
ユラユラ……
揺れて、漂い、揉まれて、溺れて、死んでいって……
幼いときから幾つ、そんな話を聴いて育っただろうか?
背負って生まれた罪に、未だに身震いするほどだ。
そして、誰も助けてはくれない。
俺も胡蝶も、分かり合える人どうしでなければ、罪という重い扉を開くことができないのだ。
胡蝶の言った言葉に、返す言葉が見つからなくて、
「胡蝶がいることで、俺がいるって解るから」
胡蝶は笑っていたけど、この世界で生きている意味はそれしか無いと思っていた。
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