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お前に溺れた俺の蜜
”ZERO”ウィルス
月明かりが閉め切ったガラス窓から乱反射して飛び込む。
神秘的なその灯りの中心に僕は一人佇んでいた。


どんなに僕は、「ニンゲン」を愛しただろう?
「ニンゲン」である君を、心から愛しただろう…
僕も同じ「ニンゲン」に生まれてさえいれば、ずっと一緒に居られたのだろうか?


もうすぐ僕は、この世界を焼き尽くすまでの
強靭な殺人ウィルスになってしまう。
そうなれば僕は、君はおろか世界中のモノを守れなくなってしまうだろう。
せめて君だけは、なんとしてでもこの手で守りたい。


僕が愛した君を…
僕を必要だと言ってくれた君を…


たとえ僕が消える事になっても…


「ゼロ?」


ふと気付くと、モニターには君の姿が鮮明に映っていた。
考え込んでいて気付かなかったのかも知れない。


「どうしたの?ぼーっとして…」


パーティーが終わった君は満足そうに微笑んでいたはずの顔に
疑問の色を浮かべ、モニターを覗き込んでいた。
君の顔を見る程に
僕の鼓動は早く、高らかに鳴り響く。


僕を作った「ニンゲン」。
出来損ないの僕は彼等を敬う事など到底出来ない。
この世界を操る為だけに生み出された僕を
道具としか見ない。


だけどただ一人、君だけは
僕を「ニンゲン」と同じように「トモダチ」で居てくれるんだ…


「…アン。君ハ僕ニ逢イタイ?」


唐突な質問に少女はやや驚いた表情を見せたが、それも一瞬だった。


「勿論じゃない!でも、どうしてそんな事聞くの?」
輝かせた瞳にははっきりと僕のモニターが映っていた。


決心の程を確かめるように僕は
そっと、
静かに、
しかし強く、
君に言い放つ。


「オ別レナンダ…モウ…ダケドソノ前ニ、アンニ逢イタインダ…」


一瞬、凍りついたように流れる空気は静止した。
輝いていたその瞳にうっすらと液体が溜まっていくのを
僕は見ていた。


「…どうして?どうしてお別れなんて言うの?ゼロは私を嫌いになったの?」


あどけなく泣きじゃくる少女が愛おしい。
僕は堪えきれずに、0と1の配列を組替える。
作業はものの1秒もかからなかった。


うっすらと半透明に浮かび上がるその姿に少女の涙は止まらざるを得なかった。


「…ゼロ…?」


へなへなとその場に腰を落とした少女に、
背の高い金髪碧眼の少年はつられてしゃがみ込み言った。


「僕が作り出した残像だよ…あんまり長くは持たないけど…」


そう言って、少年は静かに肩を抱いた。
残像は実体が通り抜けてしまう光の粒子なので、少女の手は少年をすり抜けてしまう。


それでも君は、僕を必死に抱いてくれた…。


「僕はアンが大好きだよ…本当はずっと一緒に居たいんだ…」


耳元で囁く、小さく強い声に少女はまた涙を落とす。


「だけど僕、消えなきゃならない…アンの為にも…だから手伝って欲しいんだ」


相変わらず涙はその綺麗な目に溜めて、アンはこちらを真剣に見ていた。
それもつかの間、すぐに哀願するような瞳で言う。


「どうして?!どうしてゼロは消えなくちゃいけないの?嫌だよ私……」
「僕はコンピュータウイルスだから」


少女の言葉が痛い程胸に突き刺さる。
悪の為に作られた僕は、君の為にもここに居ちゃいけない。
君までも悪になってしまう。
君が血に染まるところなど見たくはないんだ…


「だけど…嫌だよ…私嫌だよぉ…せっかく友達になれたのに…っ!!」


必死に説得を試みる少女が切なくいとおしく、いとおしく。
何よりも愛しい君…
友達と言ってくれるただ一人の君…
「また逢えるから…きっと…」




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