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お前に溺れた俺の蜜
”ZERO”ウィルス
ドクン…ドクン……。




僕の中で、波打つ鼓動が聴こえる。
でもそれは、ニンゲンの持つ「心臓」の音ではない。
無機質な、集積回路の音なんだ。




君に出会ってから、もう数週間がたつ。
君は、学校に行かなくなった。
学校に行くといじめられるから、と言っていた。




僕はどうしたらいい?
僕に何が出来るの?
君を助けてあげる事が出来ないよ……。




僕は君の身体に触れる事さえ出来ない。
この腕で守ってあげる事も出来ないんだ。
僕は…ゼロ。コンピュータウィルスだから…。




「ゼロー!見て見て!!」




モニター越しに、君をいつも見る。
手の届かない思いとは裏腹に。
そこには綺麗に着飾った君が居た。




「パパとね、今から授賞式へ行くの!」




そう言って、ピンクのドレスの裾をつまんであいさつをしてみせる君は、
どこのレディーよりも綺麗に見えた。




僕は、初めて見た日から、君のことが忘れられなくなっていた。






「いいか、ゼロ。お前はウィルスなんだ。」
世界を意のままにできるほどの力を持っているんだ。
お前の思考一つで世界は変わる。
意思を持ったウィルスはお前だけなのだから。
創るのも消すのもお前次第…。




僕が望むもの…
世界なんかじゃない。
ただ一人、君に触れたい。
君を守りたいんだ。


「…ゼロ?」


心配そうに僕を見る、君の声がした。


「大丈夫?具合でも悪いの?」

「大丈夫ダヨ、アン。どれす、ヨク似合ウ。綺麗ダ…」


この世に生まれてきた意味を、
この有能な頭脳で考えてみる。
けれどもいつも答えは、イエスかノーの二択で
この押さえられない感情の前ではオーバーヒートしてしまう。
肝心な時に役に立たないんだ。


「アン、ちょっと席を外してくれないか?ZEROと話があるんだ。」
ドア越しに軽いノックを鳴らすと、低い声が言った。
おずおずと入って来るその姿は、アンの父だ。
授賞式用に着込んだタキシードが、いつものその姿には似つかない。


「はーい、パパ。じゃあまたね、ゼロ」
ドアを勢いよく閉め、少女はパタパタと出て行く。
お気に入りのドレスとこれから始まるパーティーが楽しみでしょうがないのだろう。


「コンピュータウィルス、コードネームZERO…」


「ハイ、マスター。」
学者はいつになく真剣な眼差しでパソコンのモニターを見つめる。
殺気にも似た不穏の空気が流れていた。


「世界を意の侭に操るウィルスZERO…
お前が世界中に増殖すればこの国を壊す事など造作もない。
明日、お前の第二段階起動実験をする。」


冷たい言葉は深く確かに胸の奥に響いた。
余韻さえ深く、眩暈の中に僕の思考は落ちていった。


「了解。マスター…」




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