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お前に溺れた俺の蜜
ハルカカナタ…

「ねぇ、この花、沢山の水がないと生きていけないんだって。知ってた?」
眩しい太陽と心地良い風が頬をくすぐる昼下がり、君は僕に言った。
まじまじと僕を見る君の視線が、僕の瞳をそらさせる。顔が火照るのを感じながらも僕は答えた。

「水の花だろ?」
目の前にある噴水の水面に幾つも咲いているその花に触れながら、まだ視線の先には君を感じた。


けぶる朝もやの中、僕はふと、我にかえった。
夢を見ていたのか…いや、違う。
昔の事…そう、今にも忘れてしまいそうな記憶が、延々と甦ってくるのだ。
僕の意思に反して。

「おーい、交代の時間だぞ!!早くしろ!!」
静けさの中、同僚の大声で鼓膜が破れそうになる。

ついさっきまで、自分が見張りをしていたと思っていた。
時間が経つのがやけに早い。

眩暈を覚える猛暑、僕は炎天下での見張りを受け持っていた。

この国が「戦争」というものを始めてから、良いことは一つとしてなかった。
幾億の死人が、幾億の血が、幾億の木々が、その儚い命を落としたろうか。
そして…この国になくてはならない水さえも奪われてしまった。

水を失ったこの国は、花が育たない。
この国の象徴でもあった、「水の花」。
今はもうそのほとんどが枯れ果て、朽ちていった。

僕と君との大切な思い出の一欠片が消えてしまった。
幼い頃、唯一君と対等に話ができたあの頃…。
その思い出の水の花が消えてしまうなんて…。

僕が18になってからというもの、この任務につかされた。
この国の王宮の兵士である以上、僕はこの任務をまっとうしなければならない。
たとえ、この国の行末が不確かなものであったとしても、だ。

「おい、何をボサっとしてるんだ。」
一緒に見張り役をしている同僚が、こっちを睨んでいた。
「いや…なんでもない。」
「そういやぁ、午後から国王が非常召集かけてたぞ。お前も行くんだろ?」
「…あぁ」

国王は嫌いだ。
なぜ国民をこんな危険な目にあわせるのか。
そんな国王が召集をかけることは滅多にない。何か重要な事でもあったのだろう。
どのみち、たいした話ではないだろうと思ってはいた。
しかし何か、胸騒ぎを感じている。嫌なことでもなければいいのだが…と不安になった。

さっき思い出していた、幼い頃の思い出。
記憶の隅で忘れかけていたものが、なぜ今頃になって溢れ出してくるのか。

君にずっと伝えたいことがあったんだ。
でもずっと伝えることができなくて、ずっと大きな壁をこえることができなくて…。


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あきゅろす。
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