Dear heart
体温までの距離 2
緒方は、アパートの窓際で、沈み行くオレンジ色の太陽に照らされて、そんな想い出に浸りながら、携帯のキーをひとつひとつ確認しながら入力した。
部屋の灯りをつけないでいると、急速に窓の外が暗くなってきて、腕に記されて消えかかったナンバーは、しっかり確認しなければ間違えてしまいそうになる。
夕闇が室内にまで迫ってきていた。
入力したナンバーを発信し、応答を待つ。
呼び出し音が鳴っている。2回目の音の途中で、ナンバーの持ち主が応答してきた。
「──あの……」
「緒方か?」
すぐに自分を察した日比野が、何だかとても近くに感じる。
発信するまで感じていた緊張感が解されて、かわりに歓びに似た高揚感を覚えた。
「うん」
「仕事は?」
「休みだよ」
「そうか。……俺も明けて休みなんだ」
ふたりが逢えなかった時間など感じさせない。
きさくな口調で、低く柔らかい声が、耳元に心地好く響いて懐かしい。
静かな薄闇に包まれる室内で、まるでふたりきりでいるような錯覚すら覚える。
「もう、夕飯食ったか?」
「え?……いや」
「どこかで、一緒に飯食おうか」
緒方は、急な誘いに戸惑いを覚えたが、それでも再会できる喜びを素直に受け入れて快諾した。
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