Dear heart
体温までの距離 18
「ああ……温かいな」
陶然と呟く緒方は、無意識に吐息にまじった本音を洩らす。
「──気持ちいい……」
そのささやきにも似た本心を、日比野が聞き逃すはずはなく、日比野はさらに強く緒方を抱きしめた。
「緒方」
耳元で、ささやきが熱く濡れる。
緒方にはそれがこそばゆい。
人に抱きしめられた記憶は、遠い過去の子供時代のものだけで、ぬくもりよりもその時々の感情の方が消えずに残っている。
熱として記憶しているのは、この日比野の体温だった。
「温かいのは変わらないな……」
いけない事をしているのではないかといった懸念は、そのぬくもりにかき消されてしまった。
だんだん気持ちよくなって、意識が朦朧としてくる。
緒方はなんだか嬉しくなって、日比野の背中に回した腕に力を込めた。
「おまえ、やっぱり……。まだ成長期だったのかよ」
日比野の身体を抱くとその大きさを実感する。
同年代の少年たちより優れた体格の持ち主だった日比野でも、やっぱり少年だったのだと思わせられる。
今の日比野は大人の男の逞しさを持って、自分を抱きしめてきて。それは、突然の変化に思えて緒方を惑わせた。
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