Dear heart
体温までの距離 12
「──去年離婚した。3年も経てば身体も変わって、くい込んで抜けなくなって……。しばらく放っておいたんだけど、やっぱりあんまりいいモンじゃないから、指輪切って外したんだ。その時指にも傷がついてしまった」
緒方は何も言えないまま、黙って日比野を見つめた。
自分が知らない間、日比野には色々と辛い事があったようだ。
そう思うと同情のような胸の痛みを覚えた。
「子供は?」
「いない」
なぜこんな事を訊いてしまうのだろう。
緒方は日比野の苦しみを分かっていながら、それでも日比野の事をもっと知りたかった。
「出来なかったって言うより、つくれなかった」
日比野は、憂いを含んだ表情で、空いたグラスを見つめながら酒を注いだ。
「どうして……」
「──結婚したら、それなりになると思っていたけど、やっぱりダメだったんだ」
何が?
緒方の視線が問いかけた。
「初めの一年で4回。次に2回。後は全くなかった」
だから何が?
訊くのもはばかられたが、緒方の視線は正直に疑問を向けたままだった。
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