Dear heart
体温までの距離 4
ぼんやりとそんな事を思い出していると、テーブルの前に日比野が現れた。
「悪い、待たせたな」
笑顔で現れた日比野は、キャメルブラウンの革のジャケットを脱いで、緒方の向かいに腰かけた。
その笑顔と仕草があまりに自然で、離れていた時間の長さを感じさせない。
「いや、俺も今来たところだから……」
緒方が応えると、日比野はテーブルにある灰皿の吸殻を目にして、密やかに顔を綻ばせた。
そして、すぐにウェイターを呼んで、ビールと食事を注文した。
注文の品が届くまでの間に、日比野はシャツの胸ポケットから、煙草とライターを取り出して一服した。
緒方の前にあるものと同じ銘柄の煙草。
同じブランドのオイルライター。
緒方は、火をつける瞬間の、オイルの匂いが好きだった。
その男っぽさが日比野によく似合っていて、緒方もそれにあやかりたくて手にしていた。
日比野は、緒方の前にある自分と同じものに気付いて、表情を和らげた。
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