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Dear heart
体温までの距離 3





日比野が指定してきたのは、以前ふたりでよく通ったエスニック料理の店だった。

明るく広い店内は、今も満席に近い。
きびきびと働くサービスの行き届いたスタッフの在り方は今も昔と変わらない。
自分たちはここでよく飲み、よく話して、よく笑った。

あれからもう5年になる。

高校を卒業しても、日比野とはよく会っていた。
緒方は日比野と一緒にいる事が自然に思えたし、実際一緒にいて一番気のおけない相手というのが日比野だった。

自分より一足先に社会人になった日比野の仕事の話を聞くのは新鮮で楽しかったし、日比野もまた、大学の話をよく聞いてくれた。
日比野が卒業してから知り合ったという、様々な職種の人たちのところへも同行した。
彼らの刺激的な日常に触れるのも、新鮮な驚きとこの上ない面白さを伴って、緒方は日比野の持つ幅広い世界に魅かれていた。

それが、ある日を境に、ふたりの世界に境界線ができてしまった。

一緒に街を歩いていたある時、日比野が困惑顔で緒方に訊ねてきた。

『どうして……俺ばかり誘うんだ?』

言葉を選んで、考えながらの質問。
それでも、緒方にとってはショックだった。

言われてみれば、確かにそう感じるかもしれない。
社会人の日比野が、学生である自分に付き合うのも大変なのだろう。
……と、その時になって初めて気付いた。

忙しいのにわざわざ時間を割いて合わせてくれるのも限界だったのだろう。
そんな事にも気付かないで甘えていた自分が、何だかひどく独りよがりな子供に思えた。

あれ以来、日比野には会っていない。

会ってはいけないのだと思っていた。





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