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Dear heart
体温までの距離 15






何杯目かのグラスの酒を飲み干してから、日比野は深くため息をついた。

「一度知ってしまうと、独りでいるのが辛くなる。人間、ぬくもりに情を持ってしまうと弱くなって……。知らないでいれば独りでもいられたのに。それでも、知らなければ良かったなんて思えないんだけど……」

そんなふうに日比野に想われる女が羨ましい。
こんないい男を前にして、自分が女だったらこっちからお願いしてしまいそうだ。

緒方はそんな事を考えながら、グラスの酒を煽った。

「ぬくもりね……。俺には縁遠い言葉だよ。俺なんて結婚の兆しさえ無いっつーのに。おまえはちゃっかりバツいちかよ」

何だか分からないが、決して幸せではないはずの、日比野のそんな艶っぽい話を聞かされて、緒方は何となく劣等感を抱いてしまう。

「結婚なんかしなけりゃよかった。そうしたら、彼女を傷つけたりしないで済んだのに」

酔いが回って、目元をほんのりと赤く染めた日比野が呟く。

「前の女房といるより、おまえといる方が、ほっとしている……」

緒方もまた、淡く頬を染めて、なんとなく居心地が悪そうに、カリカリと右のこめかみを指先で掻く。
日比野は、緊張すると出るその仕草に気付いて、懐かしさを覚えた。

「俺と居たって、俺にはぬくもりなんてあげられないんだし。少なくとも奥さんとはそれなりに……」

緒方の自覚の無い問題発言に、日比野が気付いた。

本当は日比野に応えたい。
でも、自分にはそんな資格などない。

緒方の言葉を、そう解釈した日比野は、嬉しそうに笑った。




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