Dear heart 体温までの距離 14 「変だよおまえ。そんなのガマンして悶々と見つめ続けるなんて。特殊な性癖の域に入ってるよ」 歯に衣着せぬ緒方は、暗に変態を示唆する。 日比野の眉間がピクリと歪んだ。 それを知りながら、緒方は言葉を続ける。 「好きならやっちゃえばよかったじゃないか。何も無理矢理しろとは言わないけど、誘ってみりゃよかったんだ。おまえ男前でかっこいいし。嫌がる女はいないよ」 「安易にそんな事するもんじゃないだろ。いい年して……」 緒方は、その妙に悟りきった口調にさらに呆れた。 あと10年歳を取ったとしても、もっと軽いヤツはゴマンといる。 この若さでこの堅苦しさは、女性にとっては歯痒いだろう。 緒方は、日比野が愛想を尽かされたのが、なんとなく分からないでもなくなってきた。 「ダメもとでも、一回出来れば儲けもんだろ?」 勝手な緒方の持論に、今度は日比野が呆れた。 「その一回が余計な飢餓感を招くんだ。いたずらにそんな事を知って、後で苦しむのは自分なのに」 ふたりは互いに手酌をしながら、酒を飲み進める。 半ばヤケになって黙々と飲み続けていた。 [*前へ][次へ#] |