Dear heart
体温までの距離 13
「やっぱ、他に好きなひとがいるのに……。いくら求められたからって、結婚なんてするもんじゃないな」
日比野の告白を聞いて、緒方は唖然とした。
そんな無責任な事をこの日比野がしたというのか?……と、信じられない。
「どうして……好きなひとと結婚しなかったんだ?」
「結婚できない相手だから」
「──人妻?」
それまで落ち込んでいた日比野はニヤリと笑ったが、否定も肯定もしなかった。
「理由も分からないで別れたままで……。それでも、別れた後もずっと好きだった」
「じゃあ、そのひととはちゃんと出来てたんだ」
男性としての機能が希薄な訳ではないのだと納得する緒方の指摘に、日比野は恨みがましい視線で返してきた。
「好きで……好きでしょうがなくて。手も足も出なかったよ」
視線を外して遠い目をしてから、呟くように告白する。
そんな日比野を見て、緒方は日比野を見る目が変わってしまいそうな危機感を覚えた。
こんな女々しい野郎だったのかと思えてならない。
「──嫌われるのが怖くて、それならいい関係のまま傍にいることの方が、長く一緒にいられるんじゃないかって思えて……。我慢してたら捨てられた」
なんて間抜けな話だろう。
それでは、捨てられた寂しさを紛らすために、勢いで結婚に踏み切ったとでも言うのだろうか。
緒方は呆れた。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!