Dear heart 体温までの距離 7 「非現実的だ。そんな余裕あるかよ」 投げやりな返答に失笑する日比野に、緒方はニヤリと悪戯な笑いを向けて逆襲をかける。 「──もう妻子持ちか?」 「ばか。花のお独りさまだ」 「へえ……。意外」 「何だよ、意外って」 「妙に落ち着いてっから、もう親父やってんのかと思った」 「親父かよ……」 日比野はがっかりして、視線を落とした。 懐かしいテンポの会話。 変わらない笑顔。 緒方は、日比野の在り方の真意が汲めないままで、それでも、ふたたびこんな時間を共有できた事に喜びを感じていた。 食事が運ばれてきて、変わらない味に食欲をそそられる。 比較的量の多いこの店の食事は、ふたりにはちょうど良かった。 空腹が満たされてからも、懐かしい話題が次々と飛び出してきて、会話が途切れる事がなかった。 同じ医療に携わった事から、以前にも増して話題が豊富になっていた。 「おまえのユニフォーム姿……。しっかり馴染んでいて、頼れる救急隊員ってカンジで、カッコ良かった……」 ほんの少しの酔いも手伝って、緒方を臆面もなく素直にさせる。 それは緒方の本心だった。 [*前へ][次へ#] |