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Dear heart
めぐりあい15





吸引器のバルブが開かれた。

握っていた産婦の手から、不意に力が抜ける。

(──生まれた?)

緒方は状況から予感した。

やがて、気道から羊水を取り除かれた命が産声を上げた。

その力強い泣き声は、緒方の全身に、今まで味わった事のない熱い感情を湧きたたせた。

ひとしきり泣き声をあげた後、小さな命は初めて目にする光景を眩しそうにまぶたをパチパチさせて眺めている。
母親に似た二重瞼の目がぱっちりとした女の子だった。

「あら、可愛い!」

思わず口をついて出た寺崎の言葉で、それまでの緊張感がスウッと消えて、ふたたび泣き出す赤ん坊の泣き声とともに、喜びの高揚感に変わる。

「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」

寺崎が生まれたての赤ん坊を抱かせると、彼女は途端に我が子を慈しむ母親の表情に変わって、生まれたての柔らかい頬にそっと触れた。

「おめでとうございます」

緒方は感無量だった。
他に言うべき言葉など何も見つからない。

どうしてかは分からない。
熱い涙が込み上げてきて、気がついたら母親となった彼女とともに泣いていた。

寺崎はそんな緒方を見て穏やかに笑ってから、母親に断って赤ん坊を預かった。

「赤ちゃんは先にベビー室に連れていきますから、お母さんはこれから分娩室で手当てを受けて下さいね」

赤ん坊をそっと抱き上げて、曽我に後を任せると、寺崎はそのまま処置室から去って行く。
曽我もまた、ストレッチャーを分娩室に誘導した。

廊下にストレッチャーが運び出されて、母親の手がもう一度緒方を求めて差し出された。
緒方がそれに応えて手を握ると、彼女は「ありがとう」と、涙でくしゃくしゃになった笑顔で返した。

病棟へと向かうストレッチャーを、母親と同じ涙に濡れた照れくさそうな笑顔で見送った。

どうしてこんなに泣けてくるのか分からない。
感動とか素晴らしいとか、そんな理屈では測れない。

込み上げる熱い感情は、理性を越えて緒方を高揚させていた。




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