Dear heart 夢の途中2 まだ雪深い早春。 緒方は、眼科医師の須田と一緒に出張する機会があり、一泊だけ寝食を共にした。 他に同行したスタッフは女性だったため、必然的にホテルで同室になる。 一緒に寝酒を飲みながら、緒方は須田とポツポツと色々な事を話していた。 「──先生」 「何だい?」 穏やかな表情で、黙って緒方の話を聞いてくれる須田に、緒方は安心していた。 「僕は今、友人と付き合っているんですが……」 緒方の告白に、須田は興味を示した。 「先生が仰られていた代償行為とは、何だか違うみたいで……。こういうのって……どうなんでしょうか」 「どうもこうも……。それは本気なのか?緒方くん」 緒方は恥じらいながら、須田に答えた。 「──はい。彼も、僕を愛してくれているみたいなんですけど。こういうの、よく分からなくて」 須田は、この純情な青年が可愛くて仕方がなくなった。 「そういう人は、男性同士でも恋人と呼んでいいんだよ。何かの代わりではない限り、代償行為とは言わない。ちゃんと愛し合っているのでしょう?」 暖かく見守る須田の視線がくすぐったい。 緒方は、日比野との関係を須田に保証されたようで嬉しくなった。 「でもね、こんな事は他の誰にも言ってはいけないよ。相談するなら、僕か曽我先生。……あとは秘密」 理由は分かっている。 男同士の関係があまり奨励されないという事くらい、緒方も知っている。 知っていても、溺れてしまった自分がいて、少しでも理解を示してくれそうな須田だったからこそ告白したのだ。 しかし、緒方はひとつだけ気になった。 「どうして、曽我先生なんですか?」 緒方の質問に、須田は日比野にそっくりな、蠱惑的な微笑みで返した。 「彼の恋人も、男性だからさ」 緒方は驚いた。 「──内緒だよ」 人差し指を唇の前にかざして、悪戯っぽく笑う須田は、そう言って念を押した。 またひとつ、誰にも言えない秘密を背負い込んでしまった緒方は、後戻りできない立場を自覚して固唾を呑んだ。 須田はクスクス笑って「僕は君たちの味方だからね」とささやいただけで、最後まで自分の正体を語ってはくれなかった。 Dear heart ─終─ 戻る [*前へ] |