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Dear heart
友情の限界 愛情の証明 2



互いの誤解が、なんて大きな壁を作り上げてしまったのだろう。
失った時間の長さが、今となっては悔しくてならない。

「病院でのあれは、二度目の賭けだった。おまえが連絡を寄越さなかったら諦めようと思っていた。だから、おまえのナンバーは聞かないでおいたんだ。振られたら潔く諦めようと思って……」

「好きな人って」

「手ぇ出さないでいたら捨てられたってのはおまえの事だ。ずっと好きで忘れられなかったのはおまえの事だ」

緒方にとって、それは衝撃的な事実だった。
大好きだった日比野が、自分を捨てた訳じゃなくて、むしろ特別な感情を向けていたとは信じられない。

「代わりなのはおまえ以外の全て。全てがおまえの代わりだった」

驚きのあまり、大きく見開かれていた緒方のまぶたが閉じて、そこから涙がこぼれ落ちた。

こんな風に女々しく泣く自分は嫌だ。
それでも、この感情はどうしようもない。
緒方は何も返せないまま、日比野の告白に耳を傾けた。

「他には何も要らない。おまえだけでいい。おまえだけが欲しかった。……そんな気持ち、とっくに分かってくれているんだと思っていた」

緒方の頬にキスが触れた。涙を唇で掬って、そのまままぶたにもキスが寄せられる。

「日比野……」

悲しみが浄化されて感情の高揚だけが残る。
嬉しいはずなのに泣けてくる。
緒方の涙腺と感情は自制が効かなくて、涙が止められない。
自分を包み込む心地よいぬくもりに抱かれて、その背に腕を回して抱き寄せた。

「緒方」

日比野のキスがささやきとともに唇にも寄せられた。
やんわりと押し包む感触は緒方を陶然とさせる。

そして、誘うように導かれて舌を吸われて撫でられると、緒方の喉が快楽に咽いだ。

「日比野……」

快楽に堪えられなくて顔を背け、咎めるような口調でありながら抵抗は弱く、緒方はそのままシーツの上に身を崩した。
贈られるキスにもたらされる快感には、どうしても抗えない。

やがて、緒方のシャツが剥ぎ取られ、日比野の指先がその肌を撫でて緒方を追い詰めた。

「──日比野」

自覚のない甘い声が日比野を呼ぶ。
日比野はそれだけで、自制の箍が外れそうになる。

「なんだ?」

緒方の呼び声に応えながら、日比野はキスと愛撫を休める事なく緒方を煽った。

「──これって、なんなんだろう。男同士でも『恋』って言うのかな?」

相変わらずな認識に、こいつはプレミアムなとぼけた野郎だと、日比野は呆れた。『ホモ』という単語をちゃんと知っていながら、理解していないところが天然系だと思う。

日比野は緒方を見下ろして失笑しながら、耳元を舐めてささやきで返した。

「──俺のは愛情」

ささやきを贈られた緒方は、くすぐったくて背中がゾクゾクする。

着衣を全て脱がされて、肌を合わせると、すっかり馴染んだ体温に安心を与えられる。
日比野の温かい手で興奮を高められて、全身が粟立つような快感にのまれてゆく。
緒方は、日比野からの優しい関わり方に、この上ない幸せを感じていた。

でも、愛情ってなんだろう。
今度は友情でなくて愛情か。

緒方は、快楽に酔いながらそんな事をぼんやりと考えていた。

もし、日比野が自分に愛情を感じているとして。それではこの行為の意味するところは何だったのか。

そこまで考えてから、緒方は突然身体の中に侵入される違和感を覚えた。

いつの間に何を使ったのか、ひんやりとした感触の滑らかな指先が身体の中心から割り入って、中をゆっくりと押し広げるように動いている。

緒方の全身が一瞬で燃え立つように熱くなった。

「日比野!?」

「なんだ?」

「──ちょっと待て!」

官能に呑まれていながら当惑する。

これが愛とか恋といった感情なら、これは単なるぬくもりの確認行為や代償行為ではなくて、一体何だったのか。

しかも、今までにない愛撫を受けて緒方は動揺した。

キスを贈ってくる行為も、優しく肌を撫でる行為も、日比野の言う愛情に由来するものだと知ってしまうと、この行為の意味するところに、急に臆してしまう。

「これって……なに?」

「性交渉」

困惑顔で訊ねる緒方に、日比野は迷いなく現実を突きつけた。
緒方の感性のレベルにこれ以上付き合う必要はない。むしろレベルアップさせなければならないと感じる。

「え?」

真剣な顔で答える日比野から突きつけられた現実に、緒方は動揺した。

「婚姻関係であれば夫婦生活」

身体を重ねたまま見下ろして、緒方の乱れた前髪を撫で上げる。
日比野は書類上の用語を並べ立てて、緒方を金縛りにした。

「公的には使用しない一般用語ではセックスとも言う」

全てを伝えて満悦そうな日比野の蠱惑的な笑顔に、緒方は言い知れぬ危機感を抱いた。

「止めよう。俺たち、友達だろ?」

「まだ言うか?」

日和る緒方の態度が見えて、日比野はその往生際の悪さに呆れた。
自分が入るべき部分を丁寧にゆっくりと解しながら、日比野の決意は変わらない。

「認めちまえ緒方。こんなのが友情なわけないだろう。……おまえだってさっき恋だって言ったよな」

そんな指摘を受けて、緒方はどう答えていいのか分からなくなって、困惑して日比野を見つめた。

中に入ってくる指が、そっと一本ずつ増やされていく。
筋反射を指で抑制して押し拡げられながら、引き攣るような違和感を与えられる。
さらに奥深くにまで到達した指先が、腹壁側の小さな凝りをやんわりと圧迫した。

そのうちに、緒方の身体の奥からじわじわと疼きが拡がって、味わった事のない感覚に身体の変化を自覚した。

それを知った日比野はまた満足そうに笑った。

「どうしよう。変だ、俺……」

喘ぎながら顔を紅潮させて、潤んだ視線を向けてくる緒方は、官能的に日比野を誘う。

「何が変だ?」

「こんな事をされて、どうして勃つんだよ!?」

「俺とやりたいからだろ」

「したくねぇよ!」

抗えない快楽に翻弄されて、緒方が半分涙目で訴える。

「この期に及んでまだ言うか。こんなに発情しているくせに」

自分では、何が原因で泣いているのかも分かっていないくせに……と、日比野は頑として緒方の抵抗をねじ伏せた。

言葉や態度とは裏腹な反応は、既に快楽の雫を含んでいる。
日比野のキスがゆっくりと滑り落ちて、そこをやんわりと唇と舌先で包み込んで愛撫した。
口内の膨らみは、更に熱を帯びて硬く屹立してゆく。

「日比野、やめろ」

日比野の顔を引き離そうとする緒方を無視して、緒方の艶やかな先端を唇で啄むように吸い上げて、キスを贈った。

「日比野!」

「──ガタガタうるさい」

身体は悦びに喘いで、こんなに渇望しているくせに、理屈でその欲を否定しようとする。
その頑固さが日比野には気に入らない。

「──ったく。こんな事ならケダモノ(学生)のうちに犯っちまえばよかった」

恐ろしいことを平気で言ってのける。
緒方は日比野の真剣な表情に射すくめられた。

緒方は怖かった。
こんな事が自分の身に降りかかるとは思ってもみなかった。
それなのに、日比野は少しも優しくなくて、いつもの優しい日比野はどこに行ってしまったのだろうと思う。
ただでさえこんな行為は受け入れがたいのに、今の日比野からはデリカシーの欠片も感じられない。

「こんなの嫌だ!日比野」

「うるせぇ。いい加減にしないと、このまま突っ込むぞ」

日比野は重低音で凄んできた。

しかし、このまま突っ込むと言う事より、まさかと思っていたが、本当に突っ込む気でいたのかなどと言う方に、驚きの重点が置かれる。
緒方にとって、男性同士の行為などそれほど他人事だったのだ。

まるで、レイプされているようで悲しくなる。

しかしながら、快感は確実に押し寄せて、身の置き所さえ失わせるような焦れったさで緒方を追い詰めた。

例え緒方が何を訴えようと、日比野の熱は冷めることはなかった。




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あきゅろす。
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