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Dear heart
不自然な関係 1



その日は朝から落ち着かなかった。

仕事が終わる頃に、病院の正面玄関まで、日比野が迎えに来る事になっていた。

年末、大晦日は、病院は休診のため、患者はほとんどやってこない。
まばらに受診する救急患者の対応をしながら、これ以上何事も起きないように…と祈る。
そうして、年末の静かな時間が過ぎていった。

緒方のいささか落ち着かない様子に、一緒に日直についていた佐川が気付いた。
「何かイイ事でもあるのか?」と訊ねられて「友人とスキーに」とだけ答えた。
彼女でも出来たかという問いに、緒方は否定だけして、ただ嬉しそうに笑って返した。



仕事が終わって私服に着替えてから、緒方はまっすぐ正面玄関に向かった。

病院を出ると、車寄せに日比野のRV車が停まっているのが見える。

なんとなく照れくさくて、なんだか凄く嬉しい。
誰かが自分を迎えに来てくれるという事が、こんなにも満たされた気持ちになるものかと、自分の感情に驚いてしまう。

車のキャリアーにはあらかじめ緒方のスキーが積まれていて、緒方自身は、着替えと日用品を入れたバッグだけを持参していた。

玄関を出るなり、日比野が運転席から降りてきて、笑顔で緒方を迎えた。

日比野はすぐに後部ドアを開けて、緒方に荷物を入れるように促した。

荷物を積み込んでいると、退勤してきた佐川が通りかかった。

「緒方、気を付けてな」

投げかけられた優しい言葉に、緒方は笑顔で返す。

「病欠出ると、俺らの勤務がキツくなるから、ナイターは程々にな」

ふつうに解釈すれば、その通りの意味でとれる。
しかし、意味深に笑って去って行く佐川に、緒方は笑顔を真っ赤に染めて手を振りながら、これは絶対下種の勘繰りに違いないと確信していた。

「誰?」

言葉の真の意味が分からない日比野が訊ねた。
分からないなら、それはそれで有り難かった。

「医事課のホモの先輩」

からかわれた事に不機嫌になって、悪意を込めて答えた緒方のセリフに、日比野は驚愕した。

今、ホモと言わなかったか?と、確認したかったが、日比野は怖くて聞けなかった



ふたりが車に乗り込むと、今度は日直から帰る須田が通りかかった。
気さくに近寄ってくる須田に応えて、緒方はウィンドウを開けた。

「やあ、緒方くん。彼氏とデートかい?」

須田のサラリと言ってのけた言葉に、日比野の方が動揺した。

「スキーですよ。それに彼氏じゃなくて友人です」

緒方は動じず訂正する。

「いいね。どこまで?」

「ニセコです」

「ああ、年越しスキーか。泊まりがけもいいけど、代償行為に溺れないようにね」

「しませんよ、そんな事」

食傷気味に赤面する緒方を見て、須田は爽やかに笑った。

「じゃあゆっくり楽しんできて……次は僕と付き合って下さいね」

冗談なのか本気なのか判断出来ないセリフと意味深な笑顔を残して、須田は職員駐車場へと去って行った。

赤面する緒方を見て、日比野は危機感を覚える。
同性愛をあけっぴろげに承認するような、こんな怪しい職場環境に勤務していたのでは、緒方の貞操が危ういのではないか。

自分の事はさておいて、日比野はそんな事を考えた。

いつまでも車を出そうとしない日比野を訝しんで、緒方が視線を移すと、見られた日比野はビクンと身体を強張らせた。

そんな日比野の反応を見て、緒方は深くため息をついた。

「──冗談だよ。なんにも知らないおまえの反応を見て楽しんでいるだけだ。みんな悪趣味だから……」

緒方が弁解しても、説得力に欠ける。
佐川の事を平然とホモ呼ばわりしたのは、他ならぬ緒方自身なのだ。

日比野はどう返していいのか本当に困って、結局は何も言えず、複雑な心境のまま車を発進させた。




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