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俺は人気のなくなった荒地へと向かう。
水城が先ほどまで戦っていた、崖と森があるだけの荒地。
「くッ」
声が漏れた。
屈辱、侮辱、最低最悪の運の悪さな、俺。
二丁拳銃を両足のホルスターから取り出す。
もうそろそろ約束の5分が立つはずだ。
「Cr…、何番だ?」
俺は番号を知らせれていない。
何だ?
勝手にわかるものなのか、これは。
「君にはわからないよ」
背後から聞き覚えのある声がする。
「水…」
「理由は1つに決まってんだろ。君がまだ半体だからさ」
俺の言葉を遮る。
突然現れたくせに、なんでこんなに威張ってるんだよ。
「君の武器にはまだ、君のCrが入ってないし、すぐには戦えない。まずは俺の指示に従え」
――従え?
俺はお前に指図される覚えは…
「別に教えなくても俺はかまわない。ただ、君が戦えないだけ」
水城がほくそ笑む。
――ックソ…。
いつだって俺は指図される側なのかよ!
俺は水城を見つめる。
多分、殺気も混じってると思う。
「そう。いいよ、教えてあげる。まずは武器を舐めろ」
「は?」
「舐めろ」
水城は真剣なまなざしをした。
俺とあまり年が変わらない容姿をしてるのにな!
俺は従順な犬のごとく、拳銃をちょこっとだけ舐める。
「それでいい。そのうち武器が己の体と反応する。それまで待つんだな」
ムカつく。
態度でかすぎ。
水城をじーっと睨む。
そんな俺の様子を見て、水城が言葉を発した。
「君が俺を嫌いになっても、俺はどうとも思わないよ。関係ないからね」
――俺の心を読むあたりがムカつくんだ!!
◆
「坊主」
マチェッロが、僕を睨む。
僕は…崖の隅に、立っている。
「もう少し楽しませてくれると思ったのにな。残念だが、お別れだ。」
うーん、それは、間違い…かも。
マチェッロは、短槍使い。
今までの技で…見たところ、武器は…それだけ。
「負け…ない」
「今更か?」
彼が…笑う。
「身の丈ほどある大剣で、どうやって戦うんだよ」
マチェッロは、構えた。
僕も、構える。
大剣を、僕の目の前に、差し込む。
「いいぜ。大剣ごとブッ刺しでやるよ」
マチェッロは大剣の方へと飛び込んできた。
「紅い槍(ロッソランチャ)!!」
かっこいい、技名。
紅い炎の鳥が見えた。
すごい、な。
――だけど僕には当たらない。
マチェッロには、手応えがない、はず…。
「いない?」
彼が、気づいた。
そう、大剣の裏に、僕はいない…。
「鏡の世界(モンド・ディ・スペッキオ)」
マチェッロが、言う。
「そこか!」
再び襲おうと、する。
でも、僕には…当たらない。
「少し、遊ばせてよ…」
僕は…久しぶりに微笑んだ。
これが僕の、生きがい…だから。
「最近、暇…なんだ…」
「ルニーヤ・スペッキオか…お前。」
「うん…」
マチェッロは頭をかいた。
「お前、まだそんなに大きくなかっただろ?」
「…ルニーヤ・スペッキオ、13歳。」
「嘘だな」
僕は息を、吐いた。
「僕が好きで…やってる」
「そんなに祖先が好きなのか?」
マチェッロは、真剣に、僕を…見つめてる。
「好き。大好き。」
マチェッロは…短槍を持つ右手に、力を入れた。
「じゃあ、祖先を悲しませるためにはお前が必要なのか?」
「…わかんない」
知らないものは、知らない。
◆
ルニーヤ・スペッキオが大剣を構えているのが見えた。
いざというときまで、俺はしばらく観察させていただくことにするよ。
もちろん、空中からな。
2人の金髪が夜の中でも一際明るい。
――見つけやすい。
マチェッロ・アリクレッタは考えてるんだか、考えてないんだか、とりあえずルニーヤ・スペッキオへ飛び込んだ。
「死にさらせ!」
ただの馬鹿だな。
当たってもスペッキオ(鏡)の力で跳ね返されるだけなのに。
「ロッソ・バルサミーナ(紅い鳳仙花)!」
やはり、な。
「レスピンタ・スペッキオ(跳ね返す鏡)!!」
小さかった声が次第に大きくなる、ルニーヤ。
さすが、祖先の下っ端だけはある。
だが、俺には何を話しているのか、まったく理解できない。
さっきのマチェッロの技はホウセンカだということがわかる。
炎がそういう形をしてたからな。
だが、何故日本なのに異国語を話さなければならない?
それが俺には理解できない。
突如、轟音と爆発音が響いた。
煙が立ち上る。
跳ね返しきれなかったのか、それとも、跳ね返されて威力が増えたのか、確かなことはまだわからない。
ひとまず、地上に降りようと思う。
◆
何なんだ?
今の爆発音。
確か、ニーヤの方。
――死んでないよな…?
気になる。
でも、こっちの行方も気になる。
俺の目の前にある、拳銃。
拳銃の色が少しずつ、銀になりかけている。
Crの影響か…。
それは嬉しい。
でも、嬉しいと言えば嘘になるような気もする。
俺は早く戦いたかった。
クソ千宏達が来てから奪われた、本来の俺の居場所。
俺にはこれくらいしか出来ない。
だからこそ、強くなりたい。
――もういいのかわからない。
でも、色が定まってきたから戦ってもいいのだと、俺の自己判断。
ここからだと、クソ千宏の方が近い。
しょうがない、助けてやるか。
◆
私はランニョを追う。
もちろん、走るなんて馬鹿な真似はしない。
「レント(遅い)だなぁー、祖先はさッ!」
頭に響くことを言う女だな…
別に私が遅いわけじゃないし、何しろ、アンタのその移動の仕方がおかしい。
ここは森。
もしくは、林の中。
私はエアボー(エア・スケートボード)の上。
そしてランニョは、木の上。
移動の仕方はこうだよ。
指から細く紡がれた、粘着力のあるCrの糸を出して、木の枝にくっつけてターザン状態。
彼女も足を使ってないから、あまり疲れてないらしい。
すると、ランニョがとまった。
私もつられて、とまる。
否、止まざるを得なかった。
――体が動かないから。
ランニョの糸が、そこら中に張り巡らされていて。
いつの間にこんなに用意したんだろ?
何回もここを通ってたりね…。
と、勝手に考えてる私を差し置いて、ランニョは話しかけてくる。
「ねぇー? 知ってる? 新種のCr。」
――知ってるわけがない。
とは言わないけど、どうやら私の知らないその先を、ランニョはバラしてくれるみたいだね。
「ロッソ・オッキオ(赤い目)のCrねー、祖先たちよりも新しいver.ねー」
言い方が相変わらずウザイ。
でも、今は我慢してあげようじゃないか。
「"Na"、知ってるー?」
彼女は平然と言った。
「なんでそれを!!」
声を出さないつもりが、いつの間にか吠えていた。
反射…条件反射って奴?
Na。
それはCrと同等、それ以上の危険をわずらう超化学物質。
正確な製作者は不明。
Naの材料としては、他の動物の細胞。
それを人間の体内に流し込ませる。
だから、成功例は少なく、死への危険な近道となることから、禁断の症例として葬られた物質。
それがまだ…
――存在してる…?
「知ってるんだー、さっすがそ・せ・ん」
なんで…?
なんでなんでなんでなんでなんで!!
なんでこんな下っ端みたいな輩がNaを知ってる?
「私とマチェッロはなーんと! CrとNaの混血なんだーよーねっ」
ってことは、Naの能力まで体に備わってるってことか。
糸の能力については、納得。
「アランニャって呼ばれる限りは、蜘蛛なんでしょ?」
「ま、そゆことー」
――さらに納得。
さぁ、この場をどう切り抜けようか?
私は糸に絡まれてる。
まさに、今蜘蛛に食われようとしている蝶。
考えろ。
考えるんだ、私。
ここで形成を逆転するには――
「どけ! 千宏!!」
頭上を向いた。
うっわ、増援の中で1番嫌なのが来た。
クソ男は腕を交差に構えてる。
銃の色は、まさにCrの色、銀。
瞳の色は変わらない。
半体…ね。
誰だよ?
コイツにCrあげたのは…
「死にさらしな!!」
クソ男は撃った。
ランニョはクソ男からCrの反応が出ないから、Crの所持者ではないと察していたらしい。
見事に胸を貫通する。
「がはっ!」
地面に赤い血が降り注いだ。
綺麗な雨だね。
――久しぶりに、もっと見たくなっちゃった。
足元のエアボーを液体に戻す。
それをエアカッターの形に変形させて、糸を切断した。
続いて、私はCrをいつものハンドアーマーの形に生成し直す。
そのあとは簡単だった。
その場で踏み切り、ランニョへ向かって飛び上がる。
きっと彼女は、ここまでの戦略のない戦略に、動揺している。
瞳の焦点が定かではない様子。
ランニョと目が合った。
口元には血が垂れている。
「アッディーオ(さよなら)、アランニャ」
そのまま、木から落とし、地面へと叩きつけた。
「これが、祖先…」
クソ男がそう溢したけど、私の耳には届いてない。
「片付いた」
私は合流した茜に報告をする。
「無事で何よりです」
帰路へと辿る。
なぜか、水城も一緒にいた。
ニーヤが水城に抱えられながら、すやすやと眠っていたから、かな?
何? 疲れたの、ニーヤ?
ニーヤは水城のシャツをぎゅっと掴んでいる。
そうだよ、まだちっちゃい子供だからね。
しょうがないと言えば、しょうがない。
ニーヤをじろじろ見てたら、たまたま水城と目が合った。
「祖先」
「何?」
水城は無表情。
何? 感謝の言葉?
そんなものはいらないよ。
「コイツ、俺から離れないんだけど?」
訂正。
一応、嫌そうな顔はしてた。
「水城、もっと大きくなんなよ」
「は?」
水城が声を上げる。
「大人に」
「なんで…」
「いいから、ね」
無理矢理に話を通させると、潔く大人の姿へと変わる。
多分、今回の私への恩。
次回以降はないだろうね、私の言うことを潔く聞くことはさ。
水城は私と同い年くらいだから、大人の姿になっても、私的には不自然でも何でもなく。
見た目、日本人男性って感じはした。
「谷眞人ー」
私はクソ男を呼んだ。
しょうがないじゃん、1番近くにいたんだから。
「何だよ…あ゛ぁ゛?」
私はピースをして見せた。
そして、いい具合に空いてるもう片方の腕で、ニーヤの眠りを邪魔しないように水城の腕に絡む。
「どう? 夫婦に見えたりするわけ?」
「は?」
水城が否定ではなく、肯定でもない声を上げる。
「だから、どう?」
もう1度問う。
もちろん、私も大人へと姿を変えて、ね。
「どうって…」
クソ男の答えはうやむやだ。
はっきり言ってよ。
「うわぁ! お似合いですね!」
――と、クソ男に思ってたら、茜がコメントしてくれた。
「何か嬉しくない」
水城はむっとした表情へと変わる。
「このまま本当に結婚式挙げても、おかしくはないよね」
美鶴があははと冗談交じりで言う。
まぁ、確かに成熟した大人だけどね、姿は。
「水城となら別にいいよ」
同じ仲間、だし。
真面目に嫌ではない。
「俺も嫌じゃない。よくもないけど」
何を言うにも無表情。
世ではこういう男を、イケメンと言うのかな?
「本当に好きな女なら、俺だったらとっくに唇を奪ってるよ」
「カッコいいことを言いますね、水城さん」
茜が憧れの眼差しで水城を見た。
水城は気づきやしないけど。
「男は?」
美鶴が口を開いた。
何? 男って。え?
「お、オイ!」なんでクソ男がちょっとテレだしたの?
何? あんたらそういう関係?
「…谷眞人のCrが見てみたくなったのと、黒薔薇の夢を壊してやろうって思った。そんなところだよ。」
「ダメ、水城だけはそういう世界に落ちちゃだめだよ。」
――訳せば、『クソ男はどうぞご勝手に』ね。
私は一層強く、水城に腕を絡めた。
――千宏…。
今にも悔しそうな顔をして、私の前から逃げ出しそうだった男のことなんか、眼中になくて。
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