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俺は人気のなくなった荒地へと向かう。

水城が先ほどまで戦っていた、崖と森があるだけの荒地。

「くッ」

声が漏れた。

屈辱、侮辱、最低最悪の運の悪さな、俺。

二丁拳銃を両足のホルスターから取り出す。

もうそろそろ約束の5分が立つはずだ。

「Cr…、何番だ?」

俺は番号を知らせれていない。

何だ?

勝手にわかるものなのか、これは。

「君にはわからないよ」

背後から聞き覚えのある声がする。

「水…」

「理由は1つに決まってんだろ。君がまだ半体だからさ」

俺の言葉を遮る。

突然現れたくせに、なんでこんなに威張ってるんだよ。

「君の武器にはまだ、君のCrが入ってないし、すぐには戦えない。まずは俺の指示に従え」

――従え?

俺はお前に指図される覚えは…

「別に教えなくても俺はかまわない。ただ、君が戦えないだけ」

水城がほくそ笑む。

――ックソ…。

いつだって俺は指図される側なのかよ!

俺は水城を見つめる。

多分、殺気も混じってると思う。

「そう。いいよ、教えてあげる。まずは武器を舐めろ」

「は?」

「舐めろ」

水城は真剣なまなざしをした。

俺とあまり年が変わらない容姿をしてるのにな!

俺は従順な犬のごとく、拳銃をちょこっとだけ舐める。

「それでいい。そのうち武器が己の体と反応する。それまで待つんだな」

ムカつく。

態度でかすぎ。

水城をじーっと睨む。

そんな俺の様子を見て、水城が言葉を発した。

「君が俺を嫌いになっても、俺はどうとも思わないよ。関係ないからね」

――俺の心を読むあたりがムカつくんだ!!






「坊主」

マチェッロが、僕を睨む。

僕は…崖の隅に、立っている。

「もう少し楽しませてくれると思ったのにな。残念だが、お別れだ。」

うーん、それは、間違い…かも。

マチェッロは、短槍使い。

今までの技で…見たところ、武器は…それだけ。

「負け…ない」

「今更か?」

彼が…笑う。

「身の丈ほどある大剣で、どうやって戦うんだよ」

マチェッロは、構えた。

僕も、構える。

大剣を、僕の目の前に、差し込む。

「いいぜ。大剣ごとブッ刺しでやるよ」

マチェッロは大剣の方へと飛び込んできた。

「紅い槍(ロッソランチャ)!!」

かっこいい、技名。

紅い炎の鳥が見えた。

すごい、な。



――だけど僕には当たらない。



マチェッロには、手応えがない、はず…。

「いない?」

彼が、気づいた。

そう、大剣の裏に、僕はいない…。

「鏡の世界(モンド・ディ・スペッキオ)」

マチェッロが、言う。

「そこか!」

再び襲おうと、する。

でも、僕には…当たらない。

「少し、遊ばせてよ…」

僕は…久しぶりに微笑んだ。



これが僕の、生きがい…だから。



「最近、暇…なんだ…」

「ルニーヤ・スペッキオか…お前。」

「うん…」

マチェッロは頭をかいた。

「お前、まだそんなに大きくなかっただろ?」

「…ルニーヤ・スペッキオ、13歳。」

「嘘だな」

僕は息を、吐いた。

「僕が好きで…やってる」

「そんなに祖先が好きなのか?」

マチェッロは、真剣に、僕を…見つめてる。

「好き。大好き。」

マチェッロは…短槍を持つ右手に、力を入れた。

「じゃあ、祖先を悲しませるためにはお前が必要なのか?」

「…わかんない」

知らないものは、知らない。







ルニーヤ・スペッキオが大剣を構えているのが見えた。

いざというときまで、俺はしばらく観察させていただくことにするよ。

もちろん、空中からな。

2人の金髪が夜の中でも一際明るい。

――見つけやすい。

マチェッロ・アリクレッタは考えてるんだか、考えてないんだか、とりあえずルニーヤ・スペッキオへ飛び込んだ。

「死にさらせ!」

ただの馬鹿だな。

当たってもスペッキオ(鏡)の力で跳ね返されるだけなのに。

「ロッソ・バルサミーナ(紅い鳳仙花)!」

やはり、な。

「レスピンタ・スペッキオ(跳ね返す鏡)!!」

小さかった声が次第に大きくなる、ルニーヤ。

さすが、祖先の下っ端だけはある。

だが、俺には何を話しているのか、まったく理解できない。

さっきのマチェッロの技はホウセンカだということがわかる。

炎がそういう形をしてたからな。

だが、何故日本なのに異国語を話さなければならない?

それが俺には理解できない。

突如、轟音と爆発音が響いた。

煙が立ち上る。

跳ね返しきれなかったのか、それとも、跳ね返されて威力が増えたのか、確かなことはまだわからない。

ひとまず、地上に降りようと思う。







何なんだ?

今の爆発音。

確か、ニーヤの方。

――死んでないよな…?

気になる。

でも、こっちの行方も気になる。

俺の目の前にある、拳銃。

拳銃の色が少しずつ、銀になりかけている。

Crの影響か…。

それは嬉しい。

でも、嬉しいと言えば嘘になるような気もする。

俺は早く戦いたかった。

クソ千宏達が来てから奪われた、本来の俺の居場所。

俺にはこれくらいしか出来ない。

だからこそ、強くなりたい。

――もういいのかわからない。

でも、色が定まってきたから戦ってもいいのだと、俺の自己判断。

ここからだと、クソ千宏の方が近い。

しょうがない、助けてやるか。







私はランニョを追う。

もちろん、走るなんて馬鹿な真似はしない。

「レント(遅い)だなぁー、祖先はさッ!」

頭に響くことを言う女だな…

別に私が遅いわけじゃないし、何しろ、アンタのその移動の仕方がおかしい。

ここは森。

もしくは、林の中。

私はエアボー(エア・スケートボード)の上。

そしてランニョは、木の上。

移動の仕方はこうだよ。

指から細く紡がれた、粘着力のあるCrの糸を出して、木の枝にくっつけてターザン状態。

彼女も足を使ってないから、あまり疲れてないらしい。

すると、ランニョがとまった。

私もつられて、とまる。

否、止まざるを得なかった。

――体が動かないから。

ランニョの糸が、そこら中に張り巡らされていて。

いつの間にこんなに用意したんだろ?

何回もここを通ってたりね…。

と、勝手に考えてる私を差し置いて、ランニョは話しかけてくる。

「ねぇー? 知ってる? 新種のCr。」

――知ってるわけがない。

とは言わないけど、どうやら私の知らないその先を、ランニョはバラしてくれるみたいだね。

「ロッソ・オッキオ(赤い目)のCrねー、祖先たちよりも新しいver.ねー」

言い方が相変わらずウザイ。

でも、今は我慢してあげようじゃないか。



「"Na"、知ってるー?」



彼女は平然と言った。

「なんでそれを!!」

声を出さないつもりが、いつの間にか吠えていた。

反射…条件反射って奴?

Na。

それはCrと同等、それ以上の危険をわずらう超化学物質。

正確な製作者は不明。

Naの材料としては、他の動物の細胞。

それを人間の体内に流し込ませる。

だから、成功例は少なく、死への危険な近道となることから、禁断の症例として葬られた物質。

それがまだ…

――存在してる…?

「知ってるんだー、さっすがそ・せ・ん」

なんで…?

なんでなんでなんでなんでなんで!!

なんでこんな下っ端みたいな輩がNaを知ってる?

「私とマチェッロはなーんと! CrとNaの混血なんだーよーねっ」

ってことは、Naの能力まで体に備わってるってことか。

糸の能力については、納得。

「アランニャって呼ばれる限りは、蜘蛛なんでしょ?」

「ま、そゆことー」

――さらに納得。

さぁ、この場をどう切り抜けようか?

私は糸に絡まれてる。

まさに、今蜘蛛に食われようとしている蝶。

考えろ。

考えるんだ、私。

ここで形成を逆転するには――



「どけ! 千宏!!」



頭上を向いた。

うっわ、増援の中で1番嫌なのが来た。

クソ男は腕を交差に構えてる。

銃の色は、まさにCrの色、銀。

瞳の色は変わらない。

半体…ね。

誰だよ?

コイツにCrあげたのは…

「死にさらしな!!」

クソ男は撃った。

ランニョはクソ男からCrの反応が出ないから、Crの所持者ではないと察していたらしい。

見事に胸を貫通する。

「がはっ!」

地面に赤い血が降り注いだ。

綺麗な雨だね。

――久しぶりに、もっと見たくなっちゃった。

足元のエアボーを液体に戻す。

それをエアカッターの形に変形させて、糸を切断した。

続いて、私はCrをいつものハンドアーマーの形に生成し直す。

そのあとは簡単だった。

その場で踏み切り、ランニョへ向かって飛び上がる。

きっと彼女は、ここまでの戦略のない戦略に、動揺している。

瞳の焦点が定かではない様子。

ランニョと目が合った。

口元には血が垂れている。



「アッディーオ(さよなら)、アランニャ」



そのまま、木から落とし、地面へと叩きつけた。

「これが、祖先…」

クソ男がそう溢したけど、私の耳には届いてない。



「片付いた」

私は合流した茜に報告をする。

「無事で何よりです」

帰路へと辿る。

なぜか、水城も一緒にいた。

ニーヤが水城に抱えられながら、すやすやと眠っていたから、かな?

何? 疲れたの、ニーヤ?

ニーヤは水城のシャツをぎゅっと掴んでいる。

そうだよ、まだちっちゃい子供だからね。

しょうがないと言えば、しょうがない。

ニーヤをじろじろ見てたら、たまたま水城と目が合った。

「祖先」

「何?」

水城は無表情。

何? 感謝の言葉?

そんなものはいらないよ。

「コイツ、俺から離れないんだけど?」

訂正。

一応、嫌そうな顔はしてた。

「水城、もっと大きくなんなよ」

「は?」

水城が声を上げる。

「大人に」

「なんで…」

「いいから、ね」

無理矢理に話を通させると、潔く大人の姿へと変わる。

多分、今回の私への恩。

次回以降はないだろうね、私の言うことを潔く聞くことはさ。

水城は私と同い年くらいだから、大人の姿になっても、私的には不自然でも何でもなく。

見た目、日本人男性って感じはした。

「谷眞人ー」

私はクソ男を呼んだ。

しょうがないじゃん、1番近くにいたんだから。

「何だよ…あ゛ぁ゛?」

私はピースをして見せた。

そして、いい具合に空いてるもう片方の腕で、ニーヤの眠りを邪魔しないように水城の腕に絡む。

「どう? 夫婦に見えたりするわけ?」

「は?」

水城が否定ではなく、肯定でもない声を上げる。

「だから、どう?」

もう1度問う。

もちろん、私も大人へと姿を変えて、ね。

「どうって…」

クソ男の答えはうやむやだ。

はっきり言ってよ。

「うわぁ! お似合いですね!」

――と、クソ男に思ってたら、茜がコメントしてくれた。

「何か嬉しくない」

水城はむっとした表情へと変わる。

「このまま本当に結婚式挙げても、おかしくはないよね」

美鶴があははと冗談交じりで言う。

まぁ、確かに成熟した大人だけどね、姿は。

「水城となら別にいいよ」

同じ仲間、だし。

真面目に嫌ではない。

「俺も嫌じゃない。よくもないけど」

何を言うにも無表情。

世ではこういう男を、イケメンと言うのかな?

「本当に好きな女なら、俺だったらとっくに唇を奪ってるよ」

「カッコいいことを言いますね、水城さん」

茜が憧れの眼差しで水城を見た。

水城は気づきやしないけど。



「男は?」



美鶴が口を開いた。

何? 男って。え?

「お、オイ!」なんでクソ男がちょっとテレだしたの?

何? あんたらそういう関係?

「…谷眞人のCrが見てみたくなったのと、黒薔薇の夢を壊してやろうって思った。そんなところだよ。」

「ダメ、水城だけはそういう世界に落ちちゃだめだよ。」

――訳せば、『クソ男はどうぞご勝手に』ね。

私は一層強く、水城に腕を絡めた。





――千宏…。

今にも悔しそうな顔をして、私の前から逃げ出しそうだった男のことなんか、眼中になくて。

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あきゅろす。
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