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全国大会優勝!(仁王)
いったいなんて表現したら良いんだろう。
真田風に言うならば、仁王雅治という人は「たわけた人」だ。
このたわけが!とかって平手打ちをかましてやりたい。

「なんで彼女に平手打ちされるんじゃ。」

「たわけだからだよ。」


お天道様のがんばる真夏の午後。
私たちは学校の屋上にいた。
風もないし、雲もないし、ついでに日陰もない。
うだるような暑さの中で欲望のままに仁王に平手打ちをかまして見た。
ほんのり赤くなった頬を押さえる仁王は眉を寄せて私を見た。


だけだった。

怒りもせず、悲しみもせず、当惑もせず。
いつもと変わらないような顔してぽつんと呟いたのが

「なんで名前が泣いとるんじゃ。」

「知るかっ」

人の心配する台詞だった。
私の目からは涙が止まらない。
次から次へとあふれ出る。まずいまずい、これ以上は目が腫れるし赤也みたいになっちゃう。まずいまずい。
止めたいんだけど、止まらない。
半袖の夏服じゃ涙も鼻水もぬぐえない。
ハンカチなんて可愛いもの持ってない。

「使いんしゃい。」

仁王がチリ紙を寄越した。
彼氏のほうが彼女っぽいこと出きるってどういうことだ。
悔しいけれど借りた。

「名前」

きちんと鼻水をふき取ったのを確認してから、仁王は私を自分の胸の中に招き入れてくれた。
暑い。
けど、私も仁王の背中にしがみ付いた。
シャツをぐしゃぐしゃに掴んで力いっぱい抱きついた。

「俺はたわけか。」

「た、わけだ・・・ねっ」

「なんで、って聞いてもよか?」

「う、…っや、だ。」

息が巧くできない。声が引きつる。
頭の上で仁王がのどの奥でくって笑った。

「そうか」

「う、うぅ、っ」

だめだ。
また鼻水でそう。




私たちは3年生。
すべてのことが一区切りを迎える。
私は仲の良かった子と別々の進路になったし、茶色めだった髪は受験に向けて真っ黒にした。

仁王は3年間続けた部活が終わった。



全国大会準優勝。
学校には堂々とタレ幕が下ろされ、彼らは全校集会でその栄誉を称えられた。
けど。

全国大会3連覇。

誰もが達成出来ると思ってた。
私も思ってた。
仁王もきっと思ってた。
だって最近の彼はいつも屋上で空を見上げてるんだ。
笑っててもどっかで笑ってないんだ。
なのに弱音も吐かない。
誰にもいわない。
彼女であるはずの私にも何にも言わない。

「この・・・た、わけぇ」

溜めるだけ溜めた仁王に気持ちはいったいどこにいくっていうんだ。

「おう」

仁王の指が私の髪を撫でていた。
私は仁王の首筋に顔を埋めた。
仕方がないから鼻水はチリ紙で拭ってから。


私は知らない。
仁王がその時一緒に泣いてくれてたことを。








「テニス部全国大会優勝!」


いつか必ずまたそのタレ幕を、自分の手で掲げさせてみせる。


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