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予兆
「ミライ、ノルヴェさんがいらしてるわよ」
「はい、今行きます。」
ふわりと笑ったお母様にそう答え、自分もソファから降りた。
コツコツと足音を廊下に響かせながらその人が待っている客室へと急ぐ。
重たそうな装飾を施された扉を近くの使用人が開き、
部屋へと入っていった。
「こんにちは、ノルヴェ様。」
僕はそう、ソファへと腰掛けている人…ノルヴェ様に向かって挨拶をする。
「ああ。元気だったかい?ミライ」
「はい、最近は調子が良いんですよ。」
彼はノルヴェ・ミラートン。
良家の跡取りで小さい頃から知っている人だ。
暗い金髪をしていていつもニコニコしている。
そして―
「良かったよ。婚約者が体調を崩したら大変だからね」
「…ええ、そうですよ」
彼は僕の婚約者だ。
この国では同性婚は許されており僕は小さい頃からこの人に嫁ぐことが決まっていた。
だから、恋なんてしたことがなかった。
「今日はどういったご用事で?」
「得にはないんだ。君の顔が見たくなってね。」
「もう、ノルヴェ様たら。」
ノルヴェ様は体が弱い僕のためによく屋敷へと来てくれる。
ただ、外に連れて行ってもらったことはないが。
「あら、ミライ。ノルヴェさんは?」
「お母様。もうお帰りになられましたよ」
不思議そうに聞いてくるお母様にそう返すと、手をほほに当てながら「残念ねぇおいしいクッキーがあったのだけれど…」と言って意味もなく部屋を見渡していた。
「あ、そうそうミライ。明日は近くの街にお買いものに行くのよ。貴方も来るかしら?」
「!はい!僕も行きたいです!」
久しぶりに街へと行く。
そのことで気分が上がってしまい少し興奮気味にそう答えた。
お母様は綺麗に笑ったあと、「明日のお昼にね」と言ってから部屋をあとにした。
「〜!久しぶりの外だなあ、ふふ、何着ていこう」
一人になった部屋でクッションを握りしめて。
赤らむ頬を隠しながら僕は明日の買い物に胸をふくらませた。
明日で、僕の運命が変わってしまうことに気づかずに…
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