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帰ろうか





「いってきます」


玄関の扉をしめて鍵をかけ、僕は皐月の待っている公園へと急いだ。


空は雲一つない快晴で、あいも変わらず太陽は痛いぐらいの日差しを僕の後頭部に当てつける。




「あ、夕陽!」



「皐月…」


ほっ…


公園のベンチに座っている皐月を見た瞬間、僕は自然に安堵の息を吐きだした。


「っ!」


しかし、皐月の膝の上にいる猫を見た瞬間、どうしようもない不安が僕を襲った。

脳裏を駆け巡るのはあの記憶。




「…ひ…夕陽!!」


「わあ!」


いつのまにか目の前にいた皐月。
どうやら呼びかけてもなんの反応も示さない僕を心配したらしい。

「どったの?へーき?」


「あ…うん。平気、ちょっと暑くてさ」


そう引きつった笑顔で答えながら返事をする。


「ならいいけど…」

若干不安げな顔をした皐月だが、次の瞬間、意識は別の方へと写った。


「わっ!」


皐月の腕の中にいた真っ黒な猫が何を思ったのか、飛び出していったのだ。

「まて…」


それを追いかけようとする皐月。




『こけるよ皐月』

『へーき、へーき!夕陽は心配しすぎ!』






『皐月っ!!』










「っ!」


浮かんだのは夢の中での出来事。

夢のハズなのに、僕はあのとき起こったことを鮮明に覚えている。


「夕陽…?」

気づかぬうちに僕は皐月の手を掴んでいたようだ。

気まずい空気が僕らのあいだに流れる。


「あ…皐月、もう今日はかえろうか」


「…そだね、暑いし」


きっと不審がられたがそれでもいい。
とにかく、早くこの場所から立ち去りたかった。


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あきゅろす。
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